レビュー
概要
物理学者であり料理人でもある「フェルマー」を名乗る主人公が、食を通じて人々の心と知能をつなぎ直す長編マンガ。1巻では、主人公の天才的な料理が仲間の才能を引き出し、失われた記憶や人間関係を再構築していく過程を描く。タイトルは、数学者のピエール・ド・フェルマーが残した「フェルマーの最終定理」の複雑さを料理に重ねて、においと味わいの探究で障壁を壊すという意味合いが込められている。
読みどころ
- 第1話から、4つの味のバランスと体温の計測を同じ場面で描き、調理の手順をまるで実験の段取りのようにしつつ、論理的なプロセスで組み立てる。数学式を食材に置き換え、読者がSmell & Tasteを追体験する仕掛けがユニーク。
- 離別した兄妹を再び食卓に集める中で、主人公が出す料理の香りが記憶を引き出し、互いの拒絶感をほぐす。幼少期の記憶を表現するため、線のタッチを荒くし、色の飽和を抑える演出が印象的で、味や香りの距離が目に見えない形で表現される。
- 描き下ろしページでは、フェルマーが理論的なアプローチで香味を分類。料理のバランス=数学的な「等式」をコマの中に散りばめ、読者が味を視覚的に想像できるようになっている。
類書との比較
『最強の料理人 ―料理人×科学者の物語』が、料理と科学の掛け算をドキュメンタリー風に描くのに対し、本作はメタファーとしての数学と、哲学的な探求を重ね合わせる。『食戟のソーマ』のように料理勝負の要素を持ちながらも、この作品は勝ち負けではなく、記憶や孤独をつなぐ行為としての料理を描き、食卓にこそ解法を見つける。
こんな人におすすめ
- 自分の作品に論理性と感情のバランスを求めるクリエイター。
- 料理に食材の記憶や歴史を重ねていくことに興味がある人。
- 味覚や香りを人間関係の「言語」にする表現が好きな読者。
感想
フェルマーのフライパンを通じて味の等式が絵の中に浮かび上がる。料理が理論と文化を繋ぐという構図は、単純なグルメ漫画の枠を超えて、読者の思考さえも調理しようとする。調理中に見せる主人公の表情から、彼の心の中にある「解きたいもの」が垣間見え、その解法が「共感」という名のスパイスであることが最後のページで明らかになる。美味しいという感覚が、生み出す人の記憶を呼び起こす力になると信じる人に刺さる。