レビュー
概要
学校の保健室では休み時間中に心を落ち着けるためのあたたかい飲み物を提供している。主人公・伊地知潔は、クラスで“ヤバイやつ”と呼ばれるほど見た目も言動も極端な男で、他人を不快にさせることがたびたびある。クラスメイトの山之内北との日常が描かれ、北の「笑ってくれる場」が潔にとっての安全地帯でもある。北と潔の距離は、潔の自己肯定感の欠落と北の北風のような懐の深さのコントラストで成り立つ。
読みどころ
- 第2話の体育祭準備では、潔のやりすぎなジョークがクラスを崩壊させるが、北の意図的なボディランゲージと穏やかな言葉で場を沈める。北の「変わってるけどいいやつ」という心理的雰囲気に、クラスメイトは徐々に同調していく。
- 北と潔が、互いの「許せる範囲」を繰り返し試すシーンが、1話からのテンポの良さを支える。潔が自分の心の中にある「ものすごくヤバイやつ」を見せても、北がそれを受け止める姿勢は、登場人物の中で唯一の安心感を作り出す。
- サブキャラの谷町は、「秩序を守る側」の視点を出しつつ、潔の非・社会的な線引きを映し出す。谷町と北の間で「どこまで放っておくか」という議論が生まれ、内面を互いにすり合わせながら関係を作るプロセスが描かれる。
類書との比較
『私の百合はお仕事です!』や『惡の華』が、異端の感覚を外部に翻弄される描写を通じて関係性を追うのに対し、本作は“反逆する心”を内側で抱えたまま生活する人の心理と、周囲にどう受け入れられるかの過程に注力する。葛藤はあるが、どこか温かさのある光景になる。『心が叫びたがってるんだ。』が葛藤を言葉で説明し、観客に理解を求めるのに対し、この作品はそもそも“言語化する行動”に失敗しながらも、関係を再構築する瞬間を描く。
こんな人におすすめ
- 社会的な「普通」がまったく合わず、毎日が筋肉痛のように疲れている人。
- 互いの距離感をリハビリしながら関係を作りたいと思っているLGBTQ+当事者やその支援者。
- 劣等感と差別的な目線に晒されてきたが、それを笑いに変えてしまう自衛策に疲れた人。
感想
どっしりした絵のタッチで、言葉を少しずつ積み上げていくため、クラス全体の空気感が逃げ出すような臨場感に驚いた。北の抱える不安の表現こそ、潔のヤバさを真の意味で支える。読了後は、自分の中で「ヤバイ」と形容されてきた感情に対し、少しだけ他人の目を閉じて、広い空間を持てるようになった。