レビュー
概要
『山と食欲と私』1巻は、1人で山に登る女性・日々野鮎美(ひびの・あゆみ)の“山行”と“山ごはん”を軸にした、登山×グルメの漫画です。
スポ根でもなく、命がけのサバイバルでもなく、もっと生活に近い登山。電車で行ける山、日帰りの達成感、汗をかいたあとのごはん。そういう「現実にできそう」なラインでワクワクさせてくれます。
鮎美は、山では人と距離を取りがちです。
でも、山が好きだから登るし、お腹が空くから食べる。そこがブレない。だから読んでいる側も、変に構えずに山の気持ちよさに入れます。1巻は、山の入口としてすごく優しいです。
読みどころ
1) “1人登山”の空気が具体的で、憧れが湧く
1人で登るときの静けさ、ペース配分、休憩の取り方。
この作品は、そこを丁寧に描きます。誰かと一緒なら誤魔化せる不安が、1人だとそのまま出る。でも、その不安があるからこそ、景色が開けた瞬間の喜びが大きい。1巻は、その気持ちをちゃんと描いてくれます。
2) 山ごはんが「派手すぎない」のに、めちゃくちゃ美味しそう
登山メシって、凝りすぎると現実味がなくなります。
でもこの漫画は、コンビニ食材や簡単な工夫で「うわ、それやりたい」が出てくるタイプです。温かい汁もの、甘いもの、しょっぱいもの。汗をかいた体が何を求めるかが分かっていて、読んでいるだけでお腹が空きます。
3) 山のマナーや装備の話が、説教にならない
登山漫画は、知識パートが急に教科書になることがあります。
でも『山と食欲と私』は、鮎美の行動の中に自然に混ぜます。装備を軽くしたい気持ちと、安全のために必要なもの。その葛藤も含めて描くので、初心者でも置いていかれにくいです。
具体的には、行動食や飲み物の持ち方、休憩のタイミング、下山後まで見越した段取り。
こういう地味なところが描かれるので、「登る」だけではなく「帰る」までが登山だと分かります。読んだあと、山に行く前の準備が少しだけ丁寧になるタイプの漫画です。
1巻で感じる魅力(山は「自分の機嫌」を取り戻す場所)
鮎美が山に登る理由は、誰かに認められるためじゃありません。
自分が気持ちよくなるためです。景色を見たい、空気を吸いたい、汗をかきたい。そして美味しいものを食べたい。シンプルで、だからこそ強い。
読んでいて良いなと思うのは、山の時間が「メンタルを整える」みたいな上品な言い方に寄りすぎないところです。
疲れるし、しんどいし、怖い瞬間もある。だけど、その全部がセットで気持ちいい。1巻は、山の“現実”と“ご褒美”の両方を見せてくれます。
1巻の好きな空気(山で出会う「ちょうどいい距離感」)
1人登山がメインでも、山では人とすれ違います。
挨拶だけの関係、少しだけ会話する関係、同じ景色を見てそれぞれ帰る関係。その距離感が、この漫画の落ち着きにつながっています。
鮎美も、ずっと無口で硬いわけではありません。
山では素直に喜ぶし、ごはんの前ではテンションが上がる。そういう“自分の機嫌の取り方”が見えるから、読者も真似したくなります。山を趣味にするって、自己管理というより、自己ご機嫌取りなんだなと思えるのが良いです。
こんな人におすすめ
- 登山に興味はあるけど、何から始めたらいいか迷っている人
- 1人時間が好きで、外に出る趣味が欲しい人
- 美味しそうなごはん漫画も、自然の漫画も両方読みたい人
感想
この1巻を読むと、「山ってストイックな趣味」というイメージが良い意味で崩れます。
もちろん体力は必要。でも、体力だけじゃなく、準備と段取りと、休む勇気があれば楽しめる世界なんだなと思える。
何より、山ごはんの説得力がすごいです。
食べ物の描写が良いから、山の景色もより美味しそうに見える。読後に残るのは「次の休みに、近場の山に行ってみようかな」という軽い衝動です。1巻は、その衝動をくれるスタートでした。
山の漫画って、山頂の絶景だけがご褒美になりがちです。
でもこの作品は、登っている途中の風、木陰、汗を拭く時間まで含めて楽しい。だから、山に行けない日でも「外に出たい」気持ちが戻ってきます。
そして食欲。汗をかいた後の一口目の説得力が、毎回ずるいです。
1巻は、山の楽しみ方が“景色+ごはん”で固定される前の段階から、鮎美の嗜好がしっかり出ています。続きで山のバリエーションが増えていくのが想像できるので、シリーズの入口としておすすめです。
山に行ったことがない人でも、「まずは近所の低山から」でいいんだと思わせてくれるのも良かったです。
背伸びしない山の始め方が描かれているから、読後のハードルがちゃんと下がります。