レビュー
概要
原題『The Resilience Factor』の邦訳で、米ペンシルベニア大学のレジリエンシープログラム(PRP)を一般読者向けに体系化した一冊。翻訳者の宇野カオリ氏の解説も含め、仕事・家庭・子育てから災害や健康リスクまで、日常の中で浮かび上がるストレスに向き合う具体的なトレーニングが紹介されている。各章の冒頭に置かれたチェックリストやエクササイズは書き込み式で、読み進めながら自分の認知パターンに取り組める構成だ。
読みどころ
本書は「事実」「出来事」ではなく「出来事に意味を与える自動思考」を観察する「ABCモデル」に始まり、否定的な自動思考を識別して検証するワークを通じて、捉え直しの筋肉を鍛える。第3部では「安全な人間関係」「柔軟な問題解決」「価値ある目標設定」「前向きな感情の反芻」など、7つの力を鍛えるトレーニングを提示し、ペン大学でのPRP研究が示すようにこれらはうつ症状を軽減し、ストレス過程への対処能力を高める(Brunwasser, Gillham, Kim, 2009 doi:10.1037/a0017671)。特に「People Skill」パートでは、50以上の問いかけとフェードアウト式の練習で対人関係の再構築を支える。総じて「書き出して可視化しながら概念を確認→小さな行動で再検証」というCBT的反復を繰り返すリズムが作られており、大きな変化ではなく日々のスコアアップを目指すことで、挫折しにくいプログラムになっている。
類書との比較
Angela Duckworth『GRIT』やRyan Holiday『The Obstacle Is the Way』が「意志力・粘り強さ」「ストイックな姿勢」を論じるのに対し、本書は認知的再評価と温かな人間関係を軸にしている。特に『GRIT』が長期目標にフォーカスするのに対し、ライビッチたちはまずレジリエンスを測る自己認識のアップデートと、実験的に短い「好奇心の行動」を繰り返すことで「先に現実を変える実行」と「感情調整の自律」を並行させる。『嫌われる勇気』的なアドラー心理学よりも操作可能な行動計画とワークシートが充実している点で、職場のチーム導入にも向いている。
こんな人におすすめ
- ストレスを抱えて「がんばるだけでは変わらない」と感じるミドル層
- リーダーが部下のメンタルケアと成果の両立を求められている組織
- リワークやリカバリー期に「どこから再開するか」と迷っている人
- 教育現場でセルフ・モニタリングを取り入れたい教員・保護者
感想
周囲の評価が下がらないことを優先してつい自分の内面を無視していた私には、練習の「振り返り→書き出し→振り返り」がとても実践しやすかった。しばらく毎週の「ストレスノート」をつけると、第三部の「行動実験」で得たポジティブな感情を再生しやすくなり、他人に意図的にポジティブなフィードバックを送る瞬間に自分のレジリエンススコアを意識するようになった。これまで読んだどのビジネス書よりも手触りのあるワークシートなので、目の前の課題にすぐ書き込んで試す習慣をつけたい人に手渡しで届けたい。