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レビュー

概要

『37.5℃の涙』第1巻は、子どもが37.5℃の熱を出した瞬間に崩れてしまう、働く親の生活と子どもの不安を描いた作品です。主人公の杉崎桃子は、病気の子どもを預かる「病児保育士」。この漫画が見せるのは、病気そのものの怖さだけではありません。熱を出した子どもを前に、仕事を休めない親が抱く罪悪感、置いていかれる子どもの寂しさ、そしてその間に立つ支援者の仕事です。

タイトルの37.5℃という数字が象徴的です。重病ではないかもしれない。でも、保育園や学校には行けず、親の予定は一気に崩れる。その「少しの熱」が家庭へ与える大きな影響を、本作はとても具体的に描きます。第1巻の時点で、病児保育という仕事の社会的な意味がはっきり見えてきます。

本の具体的な内容

桃子の仕事は、病気の子どものそばで看病することだけではありません。子どもの体調や気分を見ながら、安全を守り、親の不安も受け止める。そのうえで、子どもが病気の時間を少しでも安心して過ごせるように支える。本書は、その役割をきれいごとにせず、現実のしんどさと一緒に描いているのが良いところです。

1巻で印象に残るのは、親の事情を単純に責めない視点です。子どもが熱を出したら、そばにいたいと思う親は多いはずです。それでも仕事を休めない。周囲に頼れない。そうした状況は珍しくありません。本作は「親失格かどうか」の話にせず、今の社会で子育てすることの難しさとして描きます。だから、働く親の葛藤がとても生々しく伝わってきます。

同時に、子どもの側の気持ちも丁寧です。具合が悪いとき、子どもは体だけでなく心も不安定になります。親と離れる寂しさや、置いていかれたような感覚が強くなる。桃子はそこに対して、単に優しくするだけではなく、その子に合った距離感で寄り添おうとします。病児保育士という仕事が、医療と保育の中間にある繊細な仕事だと分かる場面が多いです。

また、この巻は桃子自身の背景や不器用さも含めて進みます。彼女は最初から何でもうまくできる理想の支援者ではありません。だからこそ、目の前の子どもや親と向き合うたびに少しずつ変わっていく過程に説得力があります。支える側にも迷いや傷つきやすさがあることを描いているので、単なる感動ものでは終わりません。

病児保育というテーマは、一般にはまだ見えにくい分野です。病院や保育園ほど存在が知られていない一方で、実際には多くの家庭を支えています。本作はその仕事を「縁の下の専門職」として可視化します。社会の仕組みが整っていれば救われる場面と、個人の優しさだけでは足りない場面の両方が出てくるので、読むほどに問題の輪郭がはっきりします。

もうひとつ良いのは、子どもの病気を感動のための装置にしすぎないことです。高熱や不調は確かにドラマを動かしますが、本作が本当に見ているのは、そのたびに揺さぶられる日常の側です。出勤できない親、予定が崩れる職場、置いていかれる子ども、その間で働く支援者。37.5℃という数字に、家庭と社会の接点が詰まっていることがよく分かります。

類書との比較

医療漫画の多くは、治療や診断の劇的な場面に焦点を当てますが、『37.5℃の涙』が扱うのは、もっと日常に近い危機です。命に直結する大手術ではなく、「今日は誰がこの子を見るのか」という切実さが中心にある。そのため、派手さより生活実感で刺さるタイプの作品です。子育て漫画としても、医療福祉の仕事漫画としても読めます。

また、保護者と子どもを同時にケアの対象として見る視点も、この作品の特徴です。子どもの看病だけを描くならホームドラマで終わりますが、本作は仕事、保育、福祉の接点まで含めて描きます。だから読後には、誰か一人が頑張れば解決する話ではなく、仕組みそのものが必要だという感覚が残ります。

病児保育を知らない読者にとっては、社会の見えにくいインフラを知る入口にもなります。熱を出した子どものそばにいる人が必要なのは当然ですが、その「当然」を誰が担うのかは案外見えていません。本作はその空白を物語の形で埋めてくれます。

こんな人におすすめ

  • 働きながら子育てしている親
  • 保育、医療、福祉の仕事に関心がある人
  • 子どもの病気をめぐる家族の心理を丁寧に描いた漫画を読みたい人

感想

この巻を読んでいると、37.5℃という数字がただの体温ではなく、家庭の均衡が崩れる境目に見えてきます。子どもが熱を出したとき、親は仕事と看病の板挟みになり、子どもはいつもと違う一日を不安に過ごす。その両方を受け止める病児保育士の存在が、どれだけ大切かを実感しました。

特に良かったのは、親の罪悪感をあおるのでなく、子どもを置いていかざるを得ない現実の痛みをきちんと描いていることです。読んでいて胸が詰まる場面はありますが、読後感は暗すぎません。支える仕事の尊さと、誰かに頼れる仕組みの必要性が静かに残る。子育て世代だけでなく、社会の支え方を考えたい人にも届く1巻でした。

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