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レビュー

概要

『病室で念仏を唱えないでください』1巻は、「救命救急医であり、僧侶でもある」という二重の顔を持つ主人公・松本照円(まつもと しょうえん)を中心に、医療現場の極限と、人が死に向き合うときの心の揺れを描く医療漫画です。タイトルの挑発的な響きどおり、救急の現場で“祈り”や“弔い”をどう扱うのかが、笑いと痛みの両方で突きつけられます。

松本は救命救急センターに勤める救急医で、僧侶でもあります。入院患者への説法や、亡くなった患者への枕経も行う一方、病棟や救急の現場にも僧衣で現れてしまうため、患者や家族は面食らう。救急関係者からは「あおば台寺」と呼ばれることもある。しかし本人は「僧侶というのは生き方で、仕事はあくまで医師」と言い切る。この矛盾したようで筋の通った立ち位置が、1巻の強い推進力になっています。

読みどころ

1) “僧医”は悟りの人ではなく、煩悩に振り回される普通の人

松本は、聴診器と数珠をうっかり取り間違えたり、遅刻を繰り返したり、身勝手な患者や家族、同僚医師の言動に腹を立てて逆上してしまうこともあります。聖人としての僧侶ではなく、救急医としての焦りや怒りを抱えたまま、それでも人命の前に立ち続ける。ここにリアリティがあります。

2) 救命救急の“時間”と、弔いの“時間”が衝突する

救急は秒単位で判断が求められます。一方で、人が亡くなったとき、遺族や周囲の心はそう簡単に追いつかない。松本が枕経を上げる場面は、医療の合理性とは別の時間軸を現場に持ち込みます。そこで起きる気まずさや反発が、単なるギャグではなく、「死の受け止め方の違い」として描かれるのが良いところです。

3) “なぜ医師であり、僧侶なのか”が過去から立ち上がる

松本(俗名は照之)は、小学5年生のとき、同級生の宮寺哉が目の前で溺死する場面を見ています。その出来事をきっかけとして高校卒業後に得度し、仏門へ入りました。さらに、哉の母ががんで亡くなったことを転機として医学部へ進み、救命救急医となります。宗教と医療が“足し算”ではなく、喪失体験から必然的に結びついているため、主人公の言動に重みが出ます。

4) 「正しさ」では割り切れない現場の感情が描かれる

医療漫画は、理想の医師像やスーパードクターに寄ると、現実から浮いてしまうことがあります。本作はむしろ、怒り、後悔、罪悪感、祈りたい気持ちといった感情が、現場でどう噴き出すかを丁寧に扱います。松本が完璧ではないからこそ、読者は「自分がこの場にいたらどうするか」を想像せずにいられません。

こんな人におすすめ

  • 医療の現場を描く作品が好きで、倫理や感情の衝突も読みたい人
  • “死”や“弔い”を、日常から切り離さずに考えたい人
  • シリアス一辺倒ではなく、笑いで緊張をほどく作品を求める人

1巻は、救急医療の緊迫と、僧侶としての祈りが同じフレームに入ったときの違和感を、真正面から面白くしてしまう巻です。読み終えると、タイトルの意味が少し変わって聞こえてきます。

1巻の面白さは「矛盾が矛盾のまま動く」こと

医療と宗教は、どちらも人の生死に触れますが、判断のルールが違います。医療はエビデンスと手順、宗教は儀礼と物語。それを1人の人間が同時に担うと、当然ぶつかる。本作は、その衝突を“感動的に和解させる”方向へすぐに逃げず、現場の空気のまま描くのが強いです。

松本は「僧衣で現れる救急医」という見た目のインパクトだけでなく、内面も一筋縄ではいきません。僧侶なのに悟りきれず、怒りや嫉妬、焦りに振り回される。救命救急の現場で遅刻をやらかしたり、聴診器と数珠を取り違えたりする“抜け”もある。しかし、患者が亡くなった瞬間に枕経を上げることをためらわない芯もある。このアンバランスさが、主人公をきれいに飾らないぶん、読んでいて信じられる人物にしています。

背景として語られる、同級生の溺死と、その後の得度、さらに医師になるまでの経緯も効いています。救急の現場で「助けられない死」が出るたびに、彼の過去の喪失が重なってくる。だから、松本が祈りたくなるのは“僧侶だから”ではなく、“救急医として何度も死を見てきたから”でもある。この二重の理由が、タイトルの皮肉を単なる批判にせず、問いとして成立させています。

もう1つ良いのは、松本が「僧侶の仕事をしている医師」でも「医師の副業で僧侶をしている人」でもなく、両方を本気で引き受けている点です。本人は医師であることを仕事の中心に置きつつ、病棟での説法や枕経も“頼まれたから”ではなく、自分の役目としてやる。そのせいで現場の空気が乱れたり、同僚とぶつかったりするのですが、そこから目をそらさない。1巻の時点で、医療漫画としての緊張感と、人間ドラマとしての面倒くささが同居していて、続きを読みたくなります。

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