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レビュー

概要

『失恋ショコラティエ(1)』は、チョコレートを武器に恋を成就させようとした青年・小動爽太(こゆるぎ そうた)が、憧れの先輩・サエコ(高橋紗絵子)に振り回され続ける、甘くて苦い恋愛漫画です。タイトルに“失恋”とある通り、物語は爽太の「勝ち」から始まりません。爽太は告白してOKをもらったと思い込み、バレンタイン前日に精魂込めたボンボン・ショコラを贈ります。ところがサエコは、別の男性と付き合っているからと受け取りを拒否し、そもそも「(爽太とは)エッチしていないので付き合っていない」という理屈で、爽太の恋を一刀両断します。

第1巻の段階で、この作品が「純愛を応援する話」ではないと分かります。爽太は一途だけれど、相手の気持ちを正確に見ているわけではない。サエコは正直だけれど、優しいわけでもない。この不安定な関係を、チョコレートという美しい題材で包みながら、痛いほど現実的に描いていきます。

第1巻の読みどころ

1) 失恋が“努力の起点”になってしまう怖さ

爽太は失恋して終わりません。製菓学校を卒業後、フランスへ渡って修業し、5年後には若きショコラティエとして帰国します。ボネールの日本出店を機に注目され、通称「チョコレート王子」として紹介される。普通なら成長譚として爽快になりそうです。

ただし爽太の原動力は、あくまで「サエコを振り向かせたい」。努力の方向が、恋の一点に固定されている。ここが切ないし、少し怖い。読者は爽太の才能と努力を認めつつ、その努力が“誰か一人のためだけ”に使われている危うさも感じます。

2) サエコの「悪気のなさ」が、いちばん残酷

サエコは、いわゆる悪女として描かれるだけではありません。むしろ、自分に正直で、明るく、ポジティブな人として見える瞬間が多い。だからこそ厄介です。爽太が勝手に期待して勝手に傷ついているようにも見える。

第1巻のやり取りを読んでいると、恋愛の“契約”が成立していないのに、片方だけが契約成立だと思い込む怖さが浮かび上がります。サエコはそのズレを、言葉で淡々と突きつける。その淡々さが、爽太にとって致命傷になります。

3) 「ショコラヴィ」という店が、恋愛の実験場になる

爽太は独立してショコラ専門店「ショコラヴィ」を開店します。ここが、恋愛の舞台でもあり、仕事の舞台でもあるのが本作の面白さです。チョコは美味しさだけでなく、贈り物としての意味、記憶のトリガーとしての力を持つ。爽太はその力を知っているし、だからこそサエコに対して“理想の悪い男”を演じてアプローチする。

つまり爽太は、恋愛を感情だけでぶつけず、演出と設計で攻めようとする。チョコレート職人としての技術が、恋愛の戦術に変換されていく。この構造が、第1巻から明確です。

感想

第1巻を読んで印象的だったのは、爽太の恋が「美しい一途さ」と「視野の狭さ」を同時に持っていることでした。努力の量は本物で、技術も本物。でも、目的がサエコに固定されることで、爽太は何度でも同じところで転ぶ。

そして読者の側も、サエコを単純に悪者にできません。サエコは嘘をつかないし、爽太の幻想を優しく壊してくれるわけでもない。ただ、現実を言う。その現実がきつい。恋愛における“都合の悪い真実”が、チョコの甘さと対比されて、余計に苦くなる。

甘い題材で、苦い現実を描く。第1巻はその方向性がはっきりしていて、続きを読みたくなる導入でした。恋愛漫画で「胸が痛いけど面白い」を探している人におすすめです。

第1巻で“チョコレート”が効いているところ

爽太がチョコを作る場面は、単なる職業描写ではなく、感情の可視化になっています。バレンタイン前日にボンボン・ショコラを渡す行為は、告白の延長でもあり、関係の確認でもある。だからサエコに受け取りを拒否された瞬間、爽太は「味」だけではなく、「自分の気持ちの置き場」まで否定されたように感じてしまう。第1巻は、この痛みをチョコの質感に乗せて描きます。

さらに、爽太がフランスで修業し、帰国後にショコラ専門店「ショコラヴィ」を開く流れも、単なる成功物語ではありません。爽太は“チョコレート王子”と呼ばれ、外側から見れば華やかです。でも内側は、サエコへの執着が続いている。仕事で積み上げた評価が、恋愛の欠落を埋めてくれない。第1巻はこのねじれを、早い段階からはっきり見せます。

人間関係の“設計”が露骨で面白い

爽太はサエコへアプローチするため、あえて「悪い男」を演じようとします。ここが本作の面白いところで、恋愛を純粋さで押し切らず、「相手の好み」に合わせて振る舞いを設計する。爽太の戦い方は、ショコラティエとしての技術や演出感覚がそのまま恋愛に流れ込んでいるように見えます。

一方、爽太が出会うモデルの加藤えれなも、ただの当て馬では終わりません。互いに本命がいることを承知したうえで関係を持つ、という選択は、倫理的に正しいとは言いにくい。でも、その“正しくなさ”があるからこそ、爽太の恋が綺麗に整理されない現実味が出ます。第1巻は、甘さの中に、きちんと苦さを混ぜてきます。

こんな人におすすめ

  • 恋愛漫画の「気持ちいい成功」より、痛みのある現実が読みたい
  • 仕事や努力が、恋愛を簡単には救わない話が刺さる
  • チョコレートという題材で、感情の温度差を味わいたい

第1巻は、読んでいる側の心も少しザラつかせる導入です。そのザラつきがあるから、次巻で爽太がどう転ぶのか、どう戻るのかが気になります。

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