レビュー
概要
三味線を愛する少年・佐倉世那が、伝統音楽の世界で葛藤しながら成長していく青春物語。第1巻では、東京の下町で生まれ育った彼が、師匠の薫や姉のような存在の瑞季、そして彼を迎える津軽三味線の先輩たちとの不器用な交流を織り交ぜながら、三味線コンクールに挑む準備を進める。技巧に不安を抱える世那は、自分の吹き出すような感情を三味線の音に乗せることで「声なき表現」に挑む。
読みどころ
- 幼少期のトラウマが引き金となって音を出せなくなるエピソードでは、三味線の音色が風景描写と組み合わさり、音楽が心理を浮き上がらせる力を持つことが伝わる。世那の指の動きや糸の手応えがコマに細密に描かれ、「音」に頼らない表現が巧妙。
- コンクール当日の描写では、舞台裏の緊張が対話のテンポとズレることで成立しており、彼が「間合い」を守ることで自身の音を統御していく様子が核心。
- 薫の指導が単なる技術ではなく「人を受け止める姿勢」の部分に寄り添うことで、三味線の伝統を守る意味や、道具に魂を吹き込む作業が実感できる。
類書との比較
音楽マンガとしては『ピアノの森』のようにクラシックを丁寧に描くが、三味線のコシのある音の質感と、津軽の地形・風土まで踏み込むことで、日本の伝統音楽を深掘りする。『のだめカンタービレ』と違ってコメディでなく、精神的な集中状態を再現する点が『響〜小説家になる方法〜』に近い。
こんな人におすすめ
- 和楽器を体感しながらキャラクターの背景を追いたい人。
- 音楽と身体のひとつの表現としての葛藤を描いたマンガを探している読者。
- 三味線や郷土芸能に興味を抱く若い世代。
感想
三味線の「音」をどう描写するかという挑戦が序盤から随所に現れ、ページをめくるたびに湿度と呼吸が描かれているようだった。世那の弱さと、自分の弱さの正体へ向き合う姿勢に共感しながら、彼の手元を追っていくうちに、自然と自分の鼓動も重なってくる。これから失敗も含めて三味線に救われる姿を想像するだけで、このシリーズに向かう期待が膨らむ。