レビュー
概要
『カノジョは嘘を愛しすぎてる(1)』は、「嘘」と「音楽」を軸にしたラブストーリーの第1巻です。作中では、25歳の小笠原(アキ)が「ニート?」と突っ込まれながら、理子に質問攻めされる会話が印象的に描かれます。無職なのか、収入はあるのか、恋人はいるのか。距離の近すぎる問いが飛びます。主人公は“秘密”を抱えていて、それが浮かび上がります。
そして「商品の説明」にある通り、アキは音楽が好きで、友達と趣味で始めたバンドがいつのまにか仕事になり、そこから悩み始めてしまった男の子です。音楽が苦しくなって、でも好きでやめられない。そんなアキが、音楽とは関係のない世界の人間関係を求めて出会うのが理子。第1巻は、この2人が出会う意味を、嘘というテーマで組み立てていきます。
読みどころ
1) 「ニート?」の会話が、嘘の性質を暴く
理子の質問は、遠慮がありません。「25で無職なんですか?それ男としてどうなんですか?」と詰める勢いは強烈です。でも、ここが第1巻の面白さです。
アキがつく嘘は、相手を騙すためというより、自分の立ち位置を守るための嘘に見えます。仕事の正体を隠すため、説明の手間を避けるため、そして何より「音楽の世界の息苦しさ」を生活へ持ち込みたくないため。嘘が“防御”として機能していると分かると、会話の軽さがそのまま切なさになります。
2) 音楽が「好き」から「仕事」へ変わる瞬間の痛み
作者コメントが語るのは、趣味が仕事へ変わった瞬間から始まる葛藤です。周りと比べられ、比べてしまい、嫉妬し、自己嫌悪する。それでも好きだからやめられない。こうした感情は、音楽に限らず、どんな領域でも起こります。
第1巻は、恋愛のときめきだけではなく、この“好きの苦しさ”を土台に置きます。嘘は、その苦しさから逃げるための技術にもなる。だから、嘘の扱いが軽くなりません。
3) 理子の存在が「逃げ場」から「鏡」へ変わっていく
アキにとって理子は、音楽と関係のない世界の人間関係、つまり逃げ場として登場します。けれど、理子のまっすぐさは、逃げ場で終わらない。質問攻めの勢いは、アキの嘘を見逃さない力でもあります。
第1巻の段階で、理子はただの“癒やし”ではなく、アキの矛盾を照らす鏡として配置されます。逃げ場を求めたはずが、逃げられない対話が始まる。ここに物語の推進力があります。
感想
この第1巻を読んで良いと思ったのは、嘘を「悪いこと」と決めつけず、関係性を成立させるための技術としても描いている点です。嘘をつく人間は弱い、ではなく、嘘をつかないと立っていられない場所がある。その場所が音楽の世界であり、仕事としての創作である、という見立てが効いています。
同時に、理子のまっすぐさが、嘘の裏にある本音を引っ張り出してしまう怖さもある。優しさだけで終わらないラブストーリーの始まりとして、第1巻の設計がうまいと感じました。
作者コメントで語られる「比べられる/比べてしまう」「妬む」「嫌悪する」という感情は、読んでいて胸に刺さります。創作の世界だけではなく、仕事でも学業でも起きるからです。だからこそ、アキが音楽と切り離された関係を求める気持ちも理解できるし、その逃げ場として理子に近づく危うさも見える。嘘は逃げ道でありながら、同時に関係の土台を弱くする爆弾でもあります。
理子の側も、ただ純粋でかわいいヒロインというより、会話の圧が強いタイプとして描かれます。「ニートって何?」「男としてどうなんですか?」と遠慮なく踏み込む。さらに「ウチの八百屋で働けばいい」と言い出すような生活感もある。こういう現実の匂いがあるから、音楽業界の話が出てきても浮かない。第1巻は、恋愛の甘さより先に、2人の距離の詰め方の危うさを見せてくるのが良かったです。
第1巻の段階では、嘘のレイヤーがいくつか重なって見えます。アキがつく嘘(肩書きや立場をごまかす嘘)。周囲が期待する役割(売れるための“型”)に合わせてしまう嘘。そして、自分自身に対して「まだ好きでいられる」と言い聞かせる嘘。作品タイトルの「嘘」は、誰かを騙して得をする話ではなく、好きでいたいからこそ生まれる嘘として扱われます。
だから恋愛の始まりも、きれいなだけではありません。逃げ場として近づいた関係は、逃げ場として壊れやすい。けれど、理子の真っすぐさは、アキが逃げるために用意した嘘を、遠慮なく揺さぶってしまう。第1巻は、甘さと危うさが同居した形でスタートを切っていて、続きが気になる導入でした。
こんな人におすすめ
- 音楽や創作の世界の「好きが苦しい」感覚に心当たりがある人
- 嘘がテーマの恋愛ものを、軽くない温度で読みたい人
- 会話のテンポが良い少女漫画を読みたい人