レビュー
概要
吹奏楽部を舞台にした青春ミステリー「ハルチカ」シリーズの第一弾。オーボエ吹きの穂村千夏とトランペット奏者の上条春太が、部活動の合間に起きる謎や人間関係を音楽と論理力で解決していく。本作は1冊めとして、吹奏楽部の練習棟を舞台にした「退出ゲーム」という仕掛けが用意され、主人公たちが部員を守るために仕掛けられた罠と向き合う。タイトル通り「出口を探すゲーム」で、元部員やOBを巻き込みながら、舞台裏の予想外の事実が少しずつ明かされていく。
読みどころ
- 主人公の千夏と春太が、楽器の仕組みや演奏の記録を「手がかり」にして推理を進める手法が面白い。退出ゲームのルールは理路整然としていて、ピッチの変化や譜面の空白、演奏者の立ち位置の細かな違いが伏線になっており、音楽を好きな読者は装置に深く入り込んでいける。
- 高校生らしい恋愛感情、師匠との確執、先輩の引退をめぐるジレンマなどが登場し、謎解きだけでなく人間ドラマとしての厚みがある。追い詰められた局面では、2人が互いの演奏に寄り添って意思疎通しながら突破口を見出す姿が熱を帯びる。
- 謎にまつわる文化部としての地味な描写も丁寧で、器具や譜面、舞台裏の照明を扱う描写が部活経験者の気持ちを代弁する。物語後半に現れる「退部を決断した部員」が抱える事情や、部室にまつわる都市伝説的な逸話も、読者の感情の揺れを引き出す。
類書との比較
軽音楽系ミステリーとしては、細かな設定と謎解きの融合で『四月は君の嘘』に近い面もあるが、本作ではクラシック寄りの吹奏楽を扱うため緊張感のベクトルがやや異なる。『氷菓』のような文化部スローミステリーと比べると、音楽をアナログ道具に見立てて推理する点が特徴。演奏を紐解いて謎を解く構造は『青のオーケストラ』の芸術家的資質に近いが、青春の熱量をミステリーという形式で締めている点で別物として楽しめる。
こんな人におすすめ
- 吹奏楽部やクラシック音楽の舞台裏に興味がある高校生・大学生読者。
- ミステリーを読んでいても手に汗握る盛り上がりだけでなく、キャラクターの心理の揺れが味わいたい人。
- 実在する楽器・演奏の所作をモチーフにした推理装置を楽しみたい人。
感想
退出ゲームという設定は、演奏会場から脱出したいというシンプルな発想に、音楽的な符号や演奏すべき楽曲が絡んでいて、読んでいるだけで指揮棒を振っているような錯覚を覚える。千夏と春太が互いに信頼しあって音を合わせる姿が、真実を突き止める羅針盤となっているようで、読後にほっと息を吐きたくなる。 特に終盤、楽器の構造を解説しながら推理が進む場面は、単なるトリック披露ではなく、音楽の感覚が直結していて他のミステリーでは味わいにくい一体感がある。退出ゲームを機に心を通わせる部員たちの交流もまた、青春小説としての温度を維持しており、シリーズ全体を読みたいと感じる続きへの誘いになる。