レビュー
概要
『一発逆転!ワタナベ式記憶術』は、長年受験生向けに支持されてきたワタナベ式記憶術を体系的にまとめた本です。版元ドットコムでは、「ビリからトップへ。“試験の神様”が明かす受験必勝の法則」と紹介されており、単なる暗記のコツ集ではなく、試験勉強という実戦の場でどう記憶を働かせるかを前提にした本だと分かります。読み物というより、頭の使い方を作り替える訓練書に近いです。
著者の渡辺剛彰さんは、日本の記憶術の文脈でしばしば名前が挙がる人物で、本書の骨格も非常に古典的です。だからこそ、今読んでも核になる考え方は古びていません。意味のない反復で押し切るのではなく、連想、場所、順序、イメージを使って、思い出しやすい形に情報を組み替える。その発想は、現代の認知心理学で言う精緻化や検索手がかりの設計とも相性がいいです。
本の具体的な内容
版元ドットコムの目次によると、本書は「序章 私は二ケ月で司法試験に合格した」にはじまり、第1章「『ワタナベ式記憶術』はなぜ忘れないのか」、第2章「『ワタナベ式記憶術』がますます面白くなる準備練習」、第3章「これが『ワタナベ式記憶術』だ」という流れで進みます。後半には、第4章「今すぐ役立つ受験必勝の『ワタナベ式記憶術』」と第5章「今度はキミたちの番だ」が置かれています。理屈、準備、実践、受験応用、読者自身の実行という順に進む設計です。
良いのは、いきなり高度な記憶テクニックへ飛ばないことです。第1章と第2章で、なぜ普通の丸暗記では抜け落ちるのか、どうすれば記憶の足場を作れるのかを整えてから、本丸の方法に入る。記憶術の本は派手な成功談だけで押すものもありますが、本書は「準備練習」を独立させているので、再現のさせ方を意識していることが分かります。
第3章が中核で、ここでワタナベ式の連想やイメージ化の技法がまとまって出てきます。現在の視点で読めば、場所法や連想結合法に近い発想が多く、抽象的な情報を具体的な映像に変え、頭の中に並べ直して思い出す訓練だと理解できます。数字や語句をそのまま保持するのではなく、別の表象へ変換することで、取り出しやすくするわけです。
第4章が面白いのは、それを受験必勝法として再配置している点です。記憶術だけ覚えても、試験本番で引き出せなければ意味がありません。本書は、勉強した内容をどう保持し、どう想起し、どう点数に結びつけるかまで考えています。単なる能力開発本より、試験現場に寄った切実さがあります。
また、第5章「今度はキミたちの番だ」という章題からも分かるように、本書は読むだけで満足する本ではありません。試しにやってみる、覚え方を自分流に調整する、実際の勉強へ当てはめる。そういう実践を前提にしているので、受け身で読むと効果は薄く、手を動かしてはじめて意味が出ます。そこは古典的なノウハウ本らしい正直さです。
類書との比較
現代の学習本がメタ認知や間隔反復を科学的に説明するのに対し、本書はもっと職人的で、覚えるときの感覚やコツを前面に出します。ただし、だから非合理というわけではありません。むしろ、抽象概念をイメージへ変える、連想で検索経路を増やすといった原理は、今でも十分通用します。理論の教科書より、手触りのある技法書として読むと強いです。
古い記憶術の本にありがちな神秘主義へ寄りすぎない点も読みやすさにつながっています。もちろん時代を感じる成功談はありますが、中心にあるのは「どうすれば思い出しやすくなるか」という実用上の工夫です。奇跡の能力開発というより、覚え方の設計図として読んだほうが納得しやすい本です。
受験術として読むときにも、単なる裏技本ではないところが効いてきます。準備練習を経て、自分の頭の中に検索経路を増やし、本番で引き出す。そう考えると、ワタナベ式の価値は記憶量を一気に増やすことより、想起の失敗を減らすことにあります。勉強しても本番で飛ぶ人には、この視点が役に立ちます。
こんな人におすすめ
- 丸暗記だけではすぐ抜けてしまうと感じている人
- 試験勉強で、思い出すための型を作りたい人
- 記憶術の古典的な方法を体系的に知りたい人
感想
この本を読むと、記憶力は才能というより、情報の置き方の問題なのだと実感します。もちろん誰でも司法試験に受かる、という話ではありませんが、覚え方を変えるだけで再生しやすさが変わるという感覚はよく伝わってきます。勉強に追われていると、つい量だけで押し切ろうとしてしまいますが、本書は「どう置くか」を先に考えろと言ってくる本です。
今読むとやや古風な語り口はありますが、そのぶん技法の芯が見えやすいとも感じました。最新の脳科学本のような洗練はない一方で、受験生を本気で勝たせようとする圧があります。記憶術を面白い読み物として眺めるより、自分の勉強法を組み替える材料として使うと価値が出る一冊でした。
短期記憶の不安を抱えた受験生ほど、試す価値のある古典だと思います。