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レビュー

概要

『映画を撮りながら考えたこと』は、是枝裕和さんが、自身の作品制作を振り返りながら「この時代に表現しつづける」ための方法と技術、困難、可能性を語る1冊です。
『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』などの作品名が並びますが、いわゆるファンブックではありません。現場で何を見て、何に迷い、何を選び取ってきたかを、言葉で掘り下げる“創作の記録”に近い読み味です。

本書の構成(目次に沿った具体)

章立てがはっきりしていて、関心のあるところから読みやすいです。

  1. 絵コンテでつくったデビュー作
  2. 青春期・挫折
  3. 演出と「やらせ」
  4. 白でもなく、黒でもなく
  5. 不在を抱えてどう生きるか
  6. 世界の映画祭をめぐる
  7. テレビによるテレビ論
  8. テレビドラマでできること、その限界
  9. 料理人として
  10. 終章 これから「撮る」人たちへ

特に第3章の「演出と『やらせ』」や、第7章の「テレビによるテレビ論」など、ドキュメンタリーとフィクションの境界を意識してきた人なら刺さりやすいテーマが並びます。一方で、第9章の「料理人として」のように、作り手としての身体感覚が出る章もあり、硬さだけで終わりません。

読みどころ

1) 「正しさ」ではなく「揺れ」を書く

創作論の本は、結論が強いほど分かりやすく見えます。でも実際の現場は、白黒をつけられない判断の連続です。本書は、そこを誤魔化しません。
第4章の「白でもなく、黒でもなく」という章題そのものが、現場の思考を象徴しているように感じます。

2) “撮り方”の話が、“生き方”に接続している

第5章の「不在を抱えてどう生きるか」は、作品のテーマと作り手の視線が離れないことを示します。映画は、技術だけで成立しません。何を不在として捉え、どこにカメラを置くのか。そこに作り手の倫理が出ます。

3) これから作る人への現実的な言葉

終章「これから『撮る』人たちへ」があるのも良いです。成功談だけではなく、挫折や迷いを経た上で「それでも続ける」ための言葉が置かれている。創作を続けたい人にとって、現実的な支えになります。

映画の観方が変わるポイント

本書の面白さは、監督論で終わらず、鑑賞体験のほうへ戻ってくるところです。章題に沿って映画を観直すと、気づきが増えます。

  • 第3章「演出と『やらせ』」を読んだ後は、ドキュメンタリー的な瞬間と、演出が立ち上がる瞬間の境目に目が行く
  • 第4章「白でもなく、黒でもなく」を挟むと、登場人物の判断を“裁く”より、揺れとして捉えやすくなる
  • 第6章「世界の映画祭をめぐる」は、作品が外へ出るときの変化を知る入口になる

映画を観るとき、つい「感動した/しなかった」で終わりがちです。本書は、そこに言葉を増やしてくれます。

こんな人におすすめ

  • 是枝作品が好きで、作り方の背景も知りたい人
  • 映画だけでなく、文章・写真・映像など表現に関わる人
  • 「正しさ」より「誠実さ」を軸に作りたい人

感想

この本を読んで強く残ったのは、作り手の言葉が“丁寧”だということです。勢いで断言しない。簡単な結論へ逃げない。
その丁寧さは、ドキュメンタリーとフィクションの境界を考える章でも、テレビ論でも、映画祭をめぐる章でも共通しています。どの章でも、「こうすべき」より「こう考えた」という形が多い。読者に判断を預けるところが、逆に信頼できます。

個人的には、第1章の「絵コンテでつくったデビュー作」と、終章の「これから『撮る』人たちへ」を続けて読むのがおすすめです。始まりの具体と、未来への視線がつながって、創作が“続いていくもの”として見えてきます。
映画が好きな人にとっても、作る側の迷い方を知ることで、作品の見え方が少し変わる。そんな一冊でした。

章ごとに読み返しやすいので、映画を観た後の“アフターケア”としても使えます。見終わった直後の熱量が落ち着いた頃に読むと、感想が深くなるタイプの本です。

第8章の「テレビドラマでできること、その限界」や、第9章の「料理人として」は、映画のテクニック論だけでは終わらせない章だと感じました。媒体が変われば、作り方も、届き方も変わる。けれど、根っこにあるのは「何を見落とさないか」という視線です。表現に関わる人だけでなく、仕事で文章や資料を作る人にとっても、姿勢の参考になります。

第6章の「世界の映画祭をめぐる」は、作品が外へ出るときの緊張感が伝わってくる章です。 映画は作って終わりではなく、観客へ渡ってから別の作品へ変わる。 その距離感を知ると、作品を“消費”せずに観やすくなります。

映画が好きなら、手元に置いておきたい本です。

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