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レビュー

概要

『1on1の対話レッスン-ワンランク上のコーチング』は、1on1を単なる面談の予定化で終わらせず、実際に対話の質を上げるための練習書です。版元の紹介では、「業績の向上、離職率の低下、社員満足の向上にもつなげられる」「どんなテーマを取り上げたらいいかがわかる」「コミュニケーションの時間が楽しくなる」という効能が掲げられていますが、本書の価値はもっと地味で本質的です。上司と部下がどう向かい合い、どう聴き、どう問い、どう伝えるかを、20のレッスンに分けて磨いていくところにあります。

本書が興味深いのは、コーチング流行への反省を出発点にしていることです。版元紹介にもあるように、従来のコーチングは「教えない」「聞く」「質問する」ばかりが強調され、「部下を甘やかす」「質問攻めの誘導だ」といった反発も生みました。本書はそこを踏まえ、1on1はあくまで「部下のため」に行う一対一の対話であり、必要に応じてティーチングや助言も含む場だと整理します。この修正がとても重要です。

読みどころ

第一の読みどころは、第1章「まず、向かい合ってみる」です。ここでは、自分自身の棚卸し、自分自身と向かい合うこと、他者と向かい合うことが置かれます。いきなり質問技法から始まらないのがよいです。1on1がうまくいかない理由は、フレーズ不足よりも、上司が相手を見る前に自分の姿勢を整えられていないからだとわかります。アイコンタクトや自己開示、好奇心がここに入っているのも象徴的です。

第二の読みどころは、第2章と第3章です。第2章ではアクティブリスニングとフィードバック、第3章では問いかけが扱われます。特に第2章で、「聴いているサインを送る」「使っている言葉の意味を理解する」「言葉以外のものを聴く、観る」と具体的に分けているのが実践的でした。1on1では、黙って相づちを打つだけでは足りません。相手の言葉の定義、感情、身体反応まで含めて受け止める必要性がかなり明確に示されています。

第三の読みどころは、第4章と第5章です。第4章には「要望する」「体験を伝える」「メタ・コミュニケーション」「アクノレッジメントと賞賛」が並び、第5章では「部下のための時間」を確保することや、「喉の小骨」を取ること、「何」ではなく「だれ」から始めることが扱われます。会話技術の本で終わらず、運用そのものまで視野に入れている点が強みです。

本の具体的な内容

版元ドットコムに掲載された紹介文では、本書は「コーチングや1on1に役に立つ対話の技術を磨き、その質を高めるためのヒントと、練習のためのエクササイズを20のレッスンにまとめた」と説明されています。この「練習のためのエクササイズ」が本書の中心です。知識としてわかったつもりになるのではなく、向き合う、聴く、返す、問う、伝えるという行為を少しずつ身体化していくつくりになっています。1on1が制度として導入されても、対話の筋力が伴わなければ形骸化する。その問題意識がよく出ています。

第2章のアクティブリスニングは、とくに実務で効く部分です。相手の話を遮らないといった初歩で止まらず、言葉の意味を確認し、非言語情報も受け取り、IメッセージとYouメッセージを使い分ける構成になっています。たとえば、評価や断定から入ると相手は閉じやすい。けれど、自分の見えたこと、感じたこととして返すと、対話は続きやすい。本書はその違いを、抽象論ではなくレッスンとして反復可能な形にしているのがよいです。

また、第3章の問いかけも、「正しい質問集」ではなく、目的別に整理されています。相手を理解するための問い、視点を増やす問い、行動変容を促す問い、共に考えるための問いと分かれているので、1on1が尋問や誘導になりにくいです。さらに第5章では、制度運用の問題にも踏み込みます。「部下のための時間」を確保することや、「喉の小骨」を取ることは、単発の面談で終わらせないための視点です。会話技術と運用設計がつながっている点に納得感がありました。

類書との比較

1on1本には、面談の進め方をテンプレート化した本と、コーチング理論を厚く語る本があります。本書はその中間で、かなり現場向きです。理論の解説は最低限に絞り、その代わり練習単位が細かい。管理職研修の教材としても使いやすいタイプだと思います。対話の大切さを語るだけの本より実践的で、逆に制度設計だけを扱う本より人間的です。

こんな人におすすめ

会社で1on1を導入したものの、進捗確認だけで終わっている上司におすすめです。部下にどう問いかければよいかわからない人、助言しすぎてしまう人、雑談はできるが深い対話に進めない人にも向いています。部下側が読んでも有益で、1on1の時間をどう使えば有意義になるかを理解する助けになります。

感想

この本を読んでよかったのは、1on1を「上司がうまく話す場」としてではなく、「部下の成長のために対話を共同でつくる場」として捉え直せたことでした。制度としての1on1は広がっていますが、うまくいかない現場では、結局いつもの報告会に戻ってしまいがちです。本書はその失敗を、相手と向き合う姿勢、聴く技術、問いの設計、伝え方の粗さという具体的な要素に分解してくれます。

特に印象に残ったのは、「何」ではなく「だれ」から始めるという視点です。目標や課題の前に、まず相手という人間を見る。この順序を外すと、どれだけ立派な制度でも機能しません。1on1を形だけで終わらせたくない人にとって、本書はかなり使い勝手のよい実践書だと思います。

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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