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レビュー

概要

本作は、周囲に合わせて「優等生」を演じ続ける茜と、本音を隠さず口にする青磁を描く青春恋愛小説です。恋愛小説の形を取っていますが、軸にあるのはときめきだけではありません。自分を隠して生きる苦しさが、少しずつほどけていく回復の物語です。

茜は人の目を気にしすぎて、本当の気持ちを外に出せません。マスクで顔を隠して過ごす彼女から見ると、青磁の率直さはまぶしく、怖さも伴います。一方の青磁も、ただ自由奔放なだけの人気者ではありません。言葉や絵を通して自分の傷と向き合う側の人間でもあります。この二人が近づいていく過程が、本作の一番の読みどころになっています。

読みどころ

  • 「好き」より先に自己肯定感の揺れが描かれる:茜は恋をする前から、自分を出せないことに苦しんでいます。だからこの物語は、恋愛の進展そのものより、他人の前で呼吸がしやすくなるまでの変化が大事です。
  • 青磁が理想化されすぎていない:まっすぐな言葉で人を救う側に見えますが、彼自身もまた無傷ではありません。そのため、救う人と救われる人が固定されず、二人で少しずつ前へ進む感じが出ます。
  • 夜と朝のイメージがうまく効いている:暗さ、息苦しさ、隠れること、そして少しずつ明るくなることが、タイトルどおり物語全体の象徴になっています。
  • 読みやすいのに感情が重い:文体はすっと読める一方で、学校での息苦しさや「ちゃんとしていないと嫌われる」という感覚がかなり切実です。

類書との比較

同じ汐見夏衛作品でも、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が大きな運命や別れで泣かせるタイプだとすれば、本作はもっと身近な痛みを扱います。教室での居心地の悪さ、自分を偽ってしまうしんどさ、好きな相手の前で本音が言えないこと。スケールは小さくても、そのぶん感情はかなり生活に近いです。

また、青春恋愛小説の中でも、本作は恋愛成就の快感だけを押し出しません。ヒロインの自己否定や周囲への同調圧力がかなり前景にあるので、甘さより救いのほうが印象に残るタイプです。恋愛小説を読みたい人はもちろん、自分らしく振る舞えない苦しさを扱う物語が好きな人にも合います。

近いテーマの学園青春小説でも、本作は大きな事件より「日常の息苦しさ」を丁寧に積むのが特徴です。誰かに露骨にいじめられるより、期待される役割に合わせ続けるしんどさが前面に出るので、派手な展開が少なくても読後の感情は重く残ります。そのぶん、ちょっとした言葉や態度の変化が救いとして強く効きます。

こんな人におすすめ

  • 学校で空気を読みすぎて疲れた経験がある人
  • 恋愛小説の中でも、感情の息苦しさが丁寧に書かれたものを読みたい人
  • 自分を隠して生きる苦しさと、そこから抜ける物語が好きな人
  • ただ甘いだけではない青春小説を探している人

感想

読んでいてよかったのは、茜の苦しさを「繊細な女の子だから」と雑に片づけないところでした。周囲に合わせることが上手い人ほど、何を我慢しているのか見えにくい。本作はそこを、恋愛のきらめきより少し手前から丁寧に拾っています。

青磁は万能なヒーローではありません。彼のまっすぐさが眩しく見えるのは、彼自身も自分の表現に必死だからだと思います。そのため、二人の関係は「助けてくれる王子様と救われるヒロイン」ではなく、傷を持った者同士が少しずつ呼吸を合わせていく形に見えました。

学校での居場所や人間関係を描く小説は多いですが、この作品は「ちゃんとして見える人ほど崩れにくいぶん苦しさが見えにくい」という点をきちんとすくっています。だから、似た経験がある読者には恋愛のときめき以上に、見つけてもらえた感覚が残ると思います。

タイトルの美しさどおり、読後には少し光が差す余韻だけが残ります。ただしそれは、急に人生を変えるような明るさではありません。息を止めなくてもいい朝が訪れるかもしれない、という種類の希望です。恋愛の甘さだけで押し切らず、救いのほうを静かに残していく青春小説でした。

青磁に励まされて終わるのではなく、茜自身が少しずつ自分の呼吸を取り戻していく流れも好印象でした。読み終えたあとに残るのは劇的な爽快感ではありませんが、無理に笑わなくていい場所を見つけたときの安堵に近い感覚でした。

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    佐々木 健太

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