レビュー

「性格の問題」ではなく「脳のクセ」として扱う。だから対策が作れる

『あなたのあらゆる「困った! 」がなくなる 「ADHD脳」と上手につき合う本』は、先延ばし、ケアレスミス、片づけ、物忘れ、感情の揺れ、人づき合いなどの日常のつまずきを、「あなたがダメだから」ではなく「脳のクセ」として捉え直す本です。紹介文も、その点を正面から言い切ります。責める方向ではなく、設計を変える方向へ進めます。

章立てが分かりやすいのも良いです。プロローグで「片づけ以外にも困ったがいっぱい」と示し、各章を「グズグズ脳」のように名づけて処方箋へ落とします。困りごとが混ざっていても、入口を作ってくれます。

8つの「困った」を分解して、対処を組み替える

本書は、次のように困りごとを分類します。

  • 先延ばしグセの処方箋(「グズグズ脳」)
  • ケアレスミスの処方箋(「うっかり脳」)
  • 片づけられない処方箋(「ぐちゃぐちゃ脳」)
  • 記憶が途切れがちへの処方箋(「もの忘れ脳」)
  • 感情で失敗する人の処方箋(「イライラ脳」「ウツウツ脳」)
  • 依存してしまう処方箋(「わがまま脳」)
  • 疲れ・体調不良の処方箋(「ヘトヘト脳」)
  • 人づき合いの処方箋(「トラブル脳」)

この構成は、原因探しの迷路に入りにくいです。例えば「片づけられない」だけに焦点を当てると、仕事の先延ばしや人づき合いの疲れが放置されます。本書は、生活全体のバランスを見直す前提で書かれています。

読んでよかったのは、自己理解と具体策が同じページにあること

ADHD関連の本は、大きく2種類に分かれます。1つは診断や特性の説明が中心の本です。もう1つはテクニック集です。前者は理解が増えます。けれど、生活は変えにくい。後者は試せます。続けるには納得が要ります。

本書の良さは、その中間にあることです。特性を「脳のクセ」として説明しつつ、処方箋として対策を並べます。読んだ直後に「まず1つ変える」と決めやすい構成です。

類書比較:診断や子ども支援の本より「大人の日常」に焦点が合う

ADHDの類書には、診断基準や薬の話が中心の本もあります。子どもの学習支援に比重がある本も多いです。もちろん重要です。本書は、仕事と生活の困りごとを入口にします。先延ばし、ミス、片づけ、感情、疲れ、人間関係。並びが、そのまま大人の生活です。

また、テクニックだけを並べる本と比べると、自己理解のパートがある分だけ「自分に合うやり方」へ寄せやすいです。続けやすさは、そこから生まれます。

こんな人におすすめ

  • 先延ばしとミスで自己嫌悪が増えやすい人
  • 片づけや物忘れが連鎖し、生活が回らないと感じる人
  • 感情の揺れと疲れで、対人関係まで崩れやすい人

なお、症状が強い場合は、医療や支援につなぐほうが安全です。その前提のうえで、本書は「責めずに工夫する」ための言葉と整理をくれる1冊でした。

本書が扱う「困った」は広い。片づけから体調管理まで1冊でつながる

Amazonの紹介文では、部屋が汚い、締切が守れない、忘れ物が多いといった困りごとを並べたうえで、原因は脳にあるのかもしれないと言います。さらに、片づけ、先延ばし、ケアレスミス対策から体調管理まで、社会でうまくやるためのコツを図解満載で説くと続きます。

ここが本書の良さです。ADHDタイプの困りごとは、単発で起きません。片づけの失敗が遅刻につながる。遅刻で焦ってミスが増える。ミスで落ち込み、夜更かしで体調が崩れる。こういう連鎖で増えます。本書は章立ての時点で、その連鎖を切るための網を張っています。

使い方:いま一番困る章を1つ選び、次に「隣の章」へ広げる

読み進め方のおすすめは、順番に通読するより、困りごとから入ることです。例えば、締切が守れないなら先延ばしの章へ入る。ミスが多いならケアレスミスの章。片づけなら片づけの章です。

1章だけを読んで終えるのではなく、隣の章へ広げるのがコツです。先延ばしが落ち着くと、疲れが見える。疲れが見えると、感情の章が効く。こうして、生活のボトルネックを順にほどいていく読み方が合います。

本書は「処方箋」という言葉を使います。読む側は、処方箋を試し、合うものを残す運用ができます。対策を増やしすぎない。生活へ埋め込める数に絞る。そんな読み方がしやすい本だと感じました。

もう1つ良いのは、困りごとを「能力の話」に寄せないことです。先延ばしやミスは、努力不足として叱られがちです。けれど、努力で押し切るほど反動が出ます。本書は「脳のクセ」という枠で、責めるより工夫へ進めます。

また、章の射程が広い点も見逃せません。感情で失敗しやすい局面、依存が強まる局面、疲れや体調不良が続く局面、人づき合いでトラブルが増える局面までが並びます。生活のどこが崩れているのかを見つけやすい。そこが、読む価値だと思いました。

図解が多い構成なので、読み直しの負荷も低いです。困ったが再発した日に、該当章へ戻れる本です。

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    佐々木 健太

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