レビュー
概要
『自分の「怒り」タイプを知ってコントロールする はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』は、怒らない人になるための本ではありません。怒りをなくすのではなく、怒りに振り回されない状態を目指す本です。著者の安藤俊介は、日本アンガーマネジメント協会の代表理事として、怒りの扱い方を長く伝えてきた人物です。本書では、怒りを精神論で抑え込むのではなく、癖を知り、型に応じて対処し、日々のトレーニングで変えていく流れを提示します。
この本の特徴は、怒りを「性格の欠点」と決めつけないことです。怒りっぽい人には怒りっぽいなりの考え方の癖がある。そこを見える形にしていけば、改善の余地はある。本書はその発想を、診断、タイプ別分析、傾向別対処、21日間トレーニングという4段階で具体化しています。感情論に流れず、かなり手順化された実用書です。
読みどころ
第一の読みどころは、第1章の土台づくりです。ここでは「怒りっぽい性格」は変えられるのか、怒りは生まれつきなのか、怒ること自体が悪いのか、といった問いから入ります。特に重要なのは、「怒りは第二次感情である」「怒りの正体は『べき』だった」という説明です。怒りの前には、不安、悲しみ、悔しさ、疲労、期待の裏切りがある。本書はそこを押さえるので、怒りをただ表面だけで扱いません。
第二の読みどころは、第2章のタイプ診断です。本書は公式サイトでも、日本で初めて怒りの癖やタイプを診断する本だと紹介されています。診断の結果は、公明正大、博学多才、威風堂々、外柔内剛、用心堅固、天真爛漫の6タイプに分かれます。各タイプについて、特徴、怒り方の癖、背後にあるキーワード、改善トレーニング、見分け方、つき合い方、向いている役割まで整理されます。自分を責める材料ではなく、取り扱い説明書として読めるのがよいです。
第三の読みどころは、第3章と第4章の実践性です。第3章では、怒りの強度、持続性、頻度、耐性、攻撃性という5つの軸から、どこに問題が出やすいかを見ていきます。そして第4章では、アンガーログ、3つの暗号、ミラクルデイ・エクササイズ、変化ログ、3コラムテクニック、サクセスログ、べきログ、24時間アクトカーム、プレイロールなど、21日間の体質改善トレーニングが提示されます。読んで終わりになりにくい構成です。
本の具体的な内容
本書のよさは、怒りを一括処理しないところにあります。たとえば、怒りの強度が高い人と、怒りが長く残る人では、困り方が違います。すぐ爆発するのか、後まで引きずるのか、何度も小さくイラつくのか、自分に向けるのか他人に向けるのかで、必要な対処は変わります。本書はそこを5軸に分けて考えさせるので、「自分は怒りっぽい」で止まりません。
また、第2章の6タイプ分析も、単なる性格診断の読み物にしていません。各タイプごとに、どういう場面で怒りやすいか、怒りの裏にどんな価値観があるか、周囲はどう接するとよいかまで書かれているため、職場や家庭の対人理解にも使えます。自分のタイプを知るだけでなく、相手の怒り方を読みやすくなるのが実務的です。
さらに、第4章の21日間トレーニングは、本書の核です。アンガーマネジメントを「知識」ではなく「心理トレーニング」と位置づけ、毎日の記録と再解釈を通じて行動を変える設計になっています。怒りの瞬間に使う対処法だけでなく、日頃から考え方の癖をほぐす練習が入っているので、応急処置で終わりません。怒りに強い自分を作るというより、怒りとつき合える自分を作る本です。
類書との比較
怒りに関する本には、怒るなと説く道徳的な本と、体験談中心で共感を誘う本があります。本書はそのどちらとも少し違います。診断とログを軸にしているので、自分の癖を観察しながら進めやすいです。臨床心理学の理論書ほど専門的ではありませんが、自己啓発書よりはずっと構造があります。特に、タイプ別と傾向別を分けている点は整理がうまいと感じました。
こんな人におすすめ
職場や家庭でつい言いすぎて後悔する人、怒りを飲み込みすぎて後から苦しくなる人に向いています。自分の感情を言語化しにくい人にも相性がよいです。また、部下指導、子育て、接客のように感情労働が多い人にとっても役立ちます。逆に、怒りの理論を学術的に深く知りたい人には補助的な本ですが、最初の入口としてはかなり使いやすいです。
感想
この本を読んでよかったのは、怒りを善悪で切らずに扱っていることでした。怒ること自体が悪いのではない。問題は、怒りに支配されて選択肢が狭くなることだ。本書は、その見方を一貫して崩しません。だから読んでいて責められる感じが少なく、代わりに「では自分はどこを変えるか」に意識が向きます。
特に印象に残ったのは、「べき」を見つめる発想と、ログを使った訓練です。怒りの瞬間だけをどうにかするのではなく、その前提になっている考え方を観察する。これは時間がかかりますが、根本的です。診断の面白さで引き込みつつ、最後は地道なトレーニングへ着地させる構成にも納得感がありました。怒りに悩む人の入門書として、かなり実用的です。