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レビュー

概要

『ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)をはじめる セルフヘルプのためのワークブック』は、ACT(アクト)と呼ばれる心理療法の考え方を、セルフヘルプの形で実践できるようにしたワークブックです。ACTの特徴は、つらい感情や思考を「消す」方向に頑張り過ぎず、受け止め方を変えながら、自分にとって大事な価値に沿って行動していく点にあります。

メンタルの本は、読むだけで安心して終わりやすい。本書はそこを避け、実際に手を動かして「いまの自分」を観察し、価値を言語化し、行動へ落とすことを求めてきます。理解より実践に重心があり、そこがこの本の良さです。

読みどころ

1) 「なくす努力」をやめると、行動の自由度が上がる

不安や落ち込みがあると、多くの人はまず“なくす努力”をします。思考を止めようとする。気晴らしで逃げる。完璧に整ってから動こうとする。ところが、感情のコントロールに労力を使いすぎると、肝心の行動が止まります。

ACTの発想は逆で、感情がある状態でも動けるようにする。本書はそのために、「思考との距離を取る」「感情を抱えたまま一歩を選ぶ」といった練習を、ワークの形で積み上げていきます。

2) 「価値」を言語化することで、迷いが減る

ACTで重要なのは価値(values)です。ここでいう価値は、「何が正しいか」ではなく「自分は何を大事にして生きたいか」という方向性です。本書は、価値を言葉にし、それを行動の基準にする練習を促します。

価値が定まると、気分が悪い日にも「今日できる最小の一歩」を選びやすくなります。気分に振り回されるのではなく、価値に沿って行動を積む。この切り替えが、セルフヘルプとして効いてきます。

3) ワークブック形式なので、「読むだけで終わらない」

理論書は、理解は進んでも実行が進みません。本書はワークブックなので、いまの悩みや習慣を具体的に書き出し、どこで回避が起きているかを可視化します。そこから、行動の実験を小さく設計する。

ポイントは、完璧な改善計画ではなく、試せるサイズに落とすことです。日々の中で実験し、うまくいかなければ調整する。筋トレのメニューを微調整する感覚に近い。実践向きの本です。

4) ACTの「6つのコア」を手掛かりに、自分のパターンを点検できる

ACTは、いわゆる“ヘキサフレックス”と呼ばれる6つの要素で語られることが多いです。受容、脱フュージョン(思考との距離)、現在への注意、文脈としての自己、価値、コミットメント行動。これらは暗記科目ではなく、「どこで引っかかっているか」を見つけるための点検表になります。

たとえば、不安が出た瞬間に予定を全部キャンセルしてしまう。そういう癖があるなら、回避が強まっているサインです。 頭の中の言葉(「失敗する」「嫌われる」)に振り回されるなら、思考との距離が近い。 やる気が出ない。そんな日が続くなら、価値の輪郭は薄く、行動の軸を作れていない可能性があります。 こうした見立てができると、対処は“気合い”から“手当て”に変わります。

ワークブックとしての価値は、まさにここです。自分の状態を診断し、試す行動を決め、結果を観察する。セルフヘルプを「読書」から「実験」に変える導線が用意されています。

類書との比較

セルフヘルプの心理本には、認知行動療法(CBT)系のワークブック、マインドフルネス系の入門書、ポジティブ思考の習慣化に寄せた本などがあります。

CBTは「考え方の歪みを修正する」方向に強みがあり、マインドフルネスは「今ここへ注意を戻す」練習に強みがあります。ACTはその両方と関係しつつ、「思考や感情を消すこと」より「価値に沿った行動」を中心に据える点が特徴です。本書もその特徴が濃く、気分が整うのを待つより先に行動へ入る設計になっています。

「考え方を変えようとして疲れた」「ポジティブになれず自己否定が増えた」という人ほど、ACTの“受け止め方を変えて動く”方向は合うと思います。

こんな人におすすめ

  • 不安や落ち込みを消そうとして、かえって動けなくなる人
  • 気分が整うのを待つうちに、先延ばしが増えている人
  • 自分の価値を整理し、行動の基準を作りたい人
  • 読むだけでなく、手を動かして取り組みたい人

感想

この本を読んで良いと感じたのは、「気分が良くなったら動く」を前提にしないところでした。気分は天気のように揺れます。揺れるものを支配しようとすると、人生が止まる。本書が勧めるのは、揺れたままでも価値に沿って動けるようになることです。

ワークブック形式なので、読むだけでは済みません。そのぶん、現実の行動に接続しやすい。セルフヘルプ本を何冊も読んだのに生活が変わらなかった人ほど、一度この“実践の型”に乗ってみる価値があると思いました。

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    佐々木 健太

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