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レビュー

概要

フィールドワークは、知識を集める技術というより、「問いを現場で鍛える」学び方だと思う。現場に出ると、机上で整っていた概念が簡単に崩れる。そこで初めて、問いが現実の条件を持つ。本書『フィールドワークの学び方―国際学生との協働からオンライン調査まで』は、その学び方を、協働・倫理・オンライン調査まで含めて整理した実践的な入門書だと感じた。

特に良いのは、フィールドワークを「属人的な才能」ではなく「手順」として扱っている点だ。準備、観察、記録、分析、発表。各段階で起きる失敗を先回りし、再現できる形へ落とす。独学でもチームでも役に立つ。

読みどころ

1) 国際協働の現場が想定されている

フィールドワークは、単独で完結しない。言語、文化、制度が違う相手と協働すると、解釈のズレが必ず出る。本書は、そのズレを前提にした設計(役割分担、合意形成、記録の共有)が語られていて、現代的だ。

2) オンライン調査まで射程に入っている

現場が必ずしも「地理的な場所」とは限らない時代になった。コミュニティがオンラインにあることも多い。本書は、オンライン調査の論点(アクセス、匿名性、記録の扱い)を含めて扱い、フィールドの概念を広げてくれる。

3) 倫理を“後付け”にしない

調査倫理は、最後にチェックリストで済ませると事故が起きる。設計段階から組み込む必要がある。本書は、倫理を形式ではなく、関係づくりの問題として扱う。その姿勢が実務的だ。

類書との比較

フィールドワーク関連の本には、古典的な民族誌の方法論を中心に据えたものと、質的研究法全般を扱う実務書がある。前者は観察と参与の思想を深く学べるが、初学者には抽象度が高く感じられることがある。後者は手順が明快だが、調査者と現場の関係性に踏み込む厚みが不足しやすい。本書は、方法の実装と関係性の設計を同時に扱う点で、実践に乗せやすい。

また、近年のオンライン調査を独立テーマとして丁寧に扱う入門書はまだ多くない。従来の対面前提の入門書と比べると、本書はフィールドの定義を更新し、デジタル空間での倫理や記録管理まで視野に入れている。卒論・修論の導入段階で読むなら、古典を読む前に本書で全体像を押さえておくと、あとで方法論の差分を理解しやすくなる。

こんな人におすすめ

  • 卒論・修論でフィールドワークを始める人
  • 海外調査や国際共同研究に関心がある人
  • オンラインコミュニティを対象に調査したい人
  • 調査の失敗を減らし、手順として学びたい人

読み方のコツ

おすすめは、本書を読みながら「自分の調査の設計図」を1枚作ることだ。

  • 何を知りたいか(研究問い)
  • 何を見れば答えに近づくか(観察対象)
  • どう記録するか(メモ、録音、写真、ログ)
  • どこで倫理が問題になるか(同意、匿名化、関係性)

設計図があると、フィールドワークが“経験談”ではなく“実装”に近づく。

すぐ試せるミニ演習(10分)

調査対象の候補を1つ選び、次の2つをメモする。

  1. その対象について「知らないこと」を3つ書く
  2. そのうち1つを選び、「どこで・誰に・何を聞けば」近づけるかを書く

この演習をやると、問いが具体化し、現場で迷子になりにくい。

学びを定着させる小技(論文メモ)

方法論の本は、読んで納得しても、現場で再現できないと意味がない。学習研究では、読み直しよりも自力で思い出す(retrieval practice)ほうが長期保持に有利だと報告されている(例:DOI: 10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x)。

本書を読んだら、翌日に「調査の手順を5行で」思い出して書く。書けなかった行が、そのまま弱点になる。そこだけ戻ればいい。

つまずきやすいポイント(先回りメモ)

フィールドワークで詰まりやすいのは、次の3点だと思う。

  1. 問いが広すぎる:現場に出ると、何でも気になって収拾がつかなくなる
  2. 記録が足りない:その場では分かったつもりでも、後で根拠が残らない
  3. 関係性の読み違い:データ収集の前に、信頼の設計が必要になる

本書はこの3点を、段階ごとの手順として扱っている。迷ったら、手順へ戻ればいい。

次に読むなら

本書で全体の流れがつかめたら、次は自分のテーマに近いフィールドワーク事例集や、質的分析(コーディング、解釈)の入門へ進むとよい。方法論は、事例に当てた回数で身につき方が変わる。

注意点

フィールドワークは、設計しても必ず崩れる。その崩れ自体がデータでもあるが、崩れっぱなしだと事故になる。本書の手順を“守る”というより、崩れたときの戻り方として使うのが良いと思う。

感想

フィールドワークの面白さは、答えを取りに行くほど、問いが変わるところにある。本書は、その変化を怖がらず、手順として受け止めるためのガイドになっている。協働やオンライン調査まで含めている点も、いまの現場に合う。はじめての調査で不安が大きい人ほど、最初に読む価値がある一冊だ。

読み終えると、フィールドワークが「現場で頑張る」ではなく、「問いと記録を設計する」営みだと分かってくる。その理解は、研究だけでなく、仕事のリサーチやユーザー調査にも転用できると思う。

はじめの一歩を具体化したい人ほど、この本は効く。

本の虫達

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    高橋 啓介

    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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