レビュー

概要

『発達障害の人が見ている世界』は、発達障害の特性がある人の「見え方」や「感じ方」を、日常の困りごとから具体的に解きほぐす本です。マンガでよくわかる形式になっており、状況の誤解がどう生まれるかを、言葉だけではなく場面で理解できます。

本書の中心は、本人の努力不足を責めることではありません。コミュニケーションや行動のズレが、どこで起きるのかを丁寧に示します。たとえば「悪気はないのになぜか人を怒らせてしまう」「人との会話がなぜか成立しない」「当たり前がわからずうまく振る舞えない」といった、現実に起きやすい場面が章立てで出てきます。

本書の具体的な中身

章立ては3章です。

  • 第1章は、コミュニケーションの困りごとです。悪気はないのに怒らせる、会話が成立しない、意思疎通が難しい、感情が不安定になりやすいなどが扱われます。
  • 第2章は、行動の困りごとです。みんなと同じようにできない、周りとやることがズレる、当たり前が分からず振る舞えないといった話が出ます。
  • 第3章は、取り柄と強みです。ADHDの多動性や衝動性が実業家や起業家向きになり得る話や、不注意がクリエイティブで強みになる話、ASDの同一性の保持が職人や研究支援職に活かせる話などが並びます。

困りごとだけで終わらず、強みの方向へも橋をかけている構成です。読む側が「理解したつもり」で終わらないように、具体例の反復があります。

読みどころ

1) 「ズレの原因」が場面で分かります

発達障害の話は、診断名や特徴の羅列で終わると、日常へ落ちません。本書は、現場のズレをマンガで示します。何が本人にとって難しいのか。何が周囲の怒りを生むのか。そのズレが、言い訳ではなく構造として見えます。

2) 周囲側の「地雷」を減らすヒントになります

一緒に働く人や家族にとっても、困りごとはあります。ですが、怒るほど改善するわけではありません。本書は、怒りが出る前に、説明の仕方や確認の仕方を変える発想をくれます。相手を変えるのではなく、伝え方と環境を変えるという方向です。

3) 強みの章が「未来の設計」につながります

困りごとを知るだけだと、読む側は重くなります。本書は、強みの章で視点を変えます。特性は、状況次第で弱みにもなります。強みにもなります。だからこそ、向く環境へ寄せる発想が重要になります。ここが、本書を前向きに読める理由です。

読み方の提案

本書は、本人だけが読む本ではありません。むしろ、周囲の人と一緒に読む価値が高いです。マンガの場面を見ながら、「自分たちはどこで勘違いが起きているか」を話せます。

また、困りごとの章を読んだら、すぐに強みの章へ移るのがおすすめです。問題の理解と、希望の設計がセットになると、対話が続きます。理解だけで止まると、関係は改善しにくいです。

本書が扱う「すれ違い」の質

本書の良さは、すれ違いが「気持ち」の問題だけではないと示す点です。たとえば、会話が成立しないという困りごとは、相手を無視しているわけではなく、情報の受け取り方や整理の仕方が違うことで起きます。

また、「当たり前が分からない」という表現は刺さりやすいです。ですが当たり前は、説明されないルールの集合です。説明がないルールは、推測で補うしかありません。本書は、そうした推測が難しい場面を具体で見せます。だから、周囲ができる工夫も見えやすくなります。

強みの章を現実に活かす視点

強みの章は、きれいなポジティブで終わるためではありません。環境を選び、役割を設計するための材料です。

多動性や衝動性は、枠がない場所では事故につながります。ですが、スピードが価値になる場では武器になります。不注意や注意散漫も、手順が多い作業では苦しくなります。一方で、発想の飛躍が求められる場では強みになります。同一性の保持も、変化が激しい環境ではストレスになります。ですが、品質を積み上げる仕事では信頼になります。本書は、その切り替えの視点をくれます。

こんな人におすすめ

  • 発達障害の特性について、具体的な場面から理解したい人
  • 家族や職場で、すれ違いが続き、疲れている人
  • 本人の努力だけに頼らず、環境や伝え方を整えたい人
  • 困りごとだけでなく、強みの活かし方も知りたい人

感想

この本を読んで良かったのは、「見ている世界が違う」という言葉を、抽象で終わらせないところです。ズレは、性格の問題に見えやすいです。ですが、場面を分解すると、本人の中では合理的に動いていることも多いです。そこが見えると、怒りより先に工夫が出てきます。

マンガ形式なので、重いテーマでも読み進めやすいです。発達障害を理解したい人にとって、最初の一冊として手に取りやすい内容です。同時に、すでに当事者として苦労してきた人にとっても、説明の言葉を増やしてくれる本だと感じました。

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    佐々木 健太

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