レビュー

概要

『読んで学べるADHDのペアレントトレーニング――むずかしい子にやさしい子育て』は、子どもの困った行動に対して「気合いで直す」ではなく、親子のやりとりを少しずつ組み替えていく本です。ADHDの子どもを主な対象にしつつ、行動が荒れたときに家庭で何ができるかを、手順の形で示します。

構成は大きく5部です。まず行動を分類して変え方の土台を作り、次に「してほしい行動」を増やす方法へ進みます。そこから「してほしくない行動」を減らす工夫、協力を引き出す会話の作り方、最後に制限の設け方へ。読み物というより、練習のテキストに近い手触りでした。

ペアレントトレーニングという言葉に馴染みがなくても大丈夫です。本書がやろうとしているのは、親子の毎日を「観察できる単位」に分けて、うまくいく回数を増やしていくこと。対立の瞬間だけを切り取らず、その前後の流れまで含めて整える本だと感じました。

読みどころ

1) 「注目」から始めて、親の手札を増やす

最初に出てくるのは「注目こそ力である」という発想です。子どもは注目を求めて行動することがある。そう整理できると、叱るか放置するかの二択から抜け出せます。

この本は、親ができる行動を小さく分解します。声のかけ方、タイミング、言い方。だから「今日から何を変えるか」が決めやすいです。言葉の温度を下げて、行動として設計する。そこが実務的です。

2) ほめ方を、気分ではなく技術として扱う

「いつほめるか」「どのようにほめるか」を軸に、行動を増やす手順が出てきます。ここがやさしいのは、理想論の励ましではなく、具体的に練習できる形になっている点です。

ほめるのが苦手な家庭でも、「できた瞬間を拾う」「短い言葉にする」といった形で試せます。親が完璧に優しくなる話ではありません。子どもに伝わる形を作る話です。

3) 「無視」を雑に使わないための注意がある

してほしくない行動を減らす章では、無視が出てきます。ただし、万能ではありません。何を無視できて、何は無視してはいけないかを分ける視点があります。

この線引きがあるから、方法論が乱暴になりにくい。子どもを黙らせるためのテクニックではなく、親子の関係を壊さずに状況を落ち着かせる手順として読めます。

4) 協力を引き出す章が、日常の詰まりに効く

選択させること、予告、指示の出し方。こうした要素がまとまっているので、「朝が毎回戦場になる」「外出のたびに揉める」みたいな場面を想像しながら読み進められます。

親はつい説明を増やしたくなります。でも説明が長いほど、子どもの集中が切れて衝突しやすい。本書は、短い手順に落とす方向へ導きます。

5) 「制限を設ける」が、罰ではなく設計になる

制限やルールの話は、家庭では感情と結びつきやすいです。本書は、知っている道具を使うこと、指示の出し方といった形で、制限を「仕組み」として扱います。

ここまで読むと、ルールが増えるのではなく、迷いが減ります。「その場しのぎで叱って終わる」を減らし、先に約束を作る。親の疲れを減らす意味でも、最後の章が効いてきます。

本書の使い方

この本は、最初から全部を完璧にやろうとすると挫折しやすいタイプです。おすすめの読み方は、まず「行動を分類しよう」の考え方で、困っている場面を1つに絞ること。次に「どの行動を増やすか」を決めて、ほめ方を試します。

そのうえで、減らしたい行動が出たときに、無視が使える場面なのかを見極めます。協力を引き出す章に戻り、選択と予告を足す。最後に、家庭のルールを短い言葉に直す。順番に積み上げると、方法がつながっていきます。

類書との比較

子育て本には、親の気持ちを受け止めて自己肯定感を回復させるものもあります。しんどい時期にはそういう本が支えになります。一方で「明日どう動くか」が決めにくいこともあります。

本書はそこが逆で、感情のケアよりも手順の提示が中心です。行動の分類、ほめる、無視、選択、予告、制限。材料がそろっているので、家のルールを再設計しやすい。家庭内のトラブルを「性格」の問題にせず、やりとりの問題として扱う点が、類書と違う強みだと思います。

こんな人におすすめ

  • 子どもの行動に振り回され、毎日が消耗戦になっている人
  • 叱る回数を減らしたいが、代わりの手が見つからない人
  • 支援の考え方を、家庭で試せる形に落とし込みたい人

感想

読んでいて一番安心したのは、親を「いつも穏やかでいなきゃ」と追い詰めないところでした。できることを小さくして、順番に試す。うまくいかなければ調整する。その繰り返しで、家庭の空気は変えられる。そういう現実的な希望があります。

ADHDという言葉が前に出ますが、診断名の有無より「生活が回らない」状態の整理に向いています。子どものためにも親のためにも、まず衝突の回数を減らしたい。そう思ったときの出発点として、頼れる1冊です。

「子どもの行動を変える」より前に、「親が何を見て、どう反応するか」を整える。そこに焦点を置く姿勢が、この本の誠実さだと思いました。家庭のなかで試せる支援の形を探している人にとって、現実的な道具箱になります。

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    佐々木 健太

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