レビュー
「楽譜が読めない」を前提に、最初の一歩を作る入門書
『ピアノの教科書』は、大人の入門・初級者向けに作られた教則本です。特徴は、最初から「楽譜が読める人」を想定していない点にあります。ピアノの仕組みから入り、楽譜の読み方へつなぎ、練習曲を多数載せる。さらに、最初は楽譜が読めなくても、鍵盤に触れながら音を出す楽しさを味わえる。ここが入口として強いです。
読み進めていくと、まったくの初心者でも、終える頃には初級レベルの簡単な両手奏へチャレンジできる構成になっています。「最終的に両手で弾く」とゴールが見えると、練習の意味がぶれにくくなります。
QRコードで、練習の「迷い」を減らす
各チャプターごとにQRコードが付いていて、スマホから動画を視聴できます。これは独習に効きます。独学のつまずきは、練習の方向が分からなくなることです。動画があると、次の2つが同時に解決します。
- お手本の音とテンポが分かる
- 指や腕の動きが分かる
本書は、ただ音を読んで弾くだけにしません。腕や肘の使い方にも触れ、正しい演奏フォームを身につける方向へ導きます。初級の曲でも「本格的な演奏への第一歩」を作れる。ここが教科書らしい設計です。
練習の設計:短い「Ex」と、まとめの「練習曲」
本文はオールカラーで、写真や図が見やすい作りです。その上で、短い練習フレーズ「Ex」と、進度ごとに学んだ技術や知識を使って演奏する「練習曲」が用意されています。狙いは明確です。学んだ内容を、その場で確認しながら進められるようにすることです。
独学の難しさは、理解と演奏が分離しやすいことです。読んで分かった気になる。弾くと指が動かない。あるいは、弾けた気になる。別の曲で崩れる。本書は、Exと練習曲の往復で、理解と演奏を接続しようとします。
さらに、Exや練習曲は全てスマホで動画視聴ができます。つまり「読む→弾く→比べる」のループが作れます。ループがあると、上達が測れます。測れると続きます。効果で考えると、続く設計が一番重要です。
フォームの話が入っているから、音が「整う」
本書は、腕や肘の使い方にも触れます。これは地味に大きいです。初心者は、鍵盤を指だけで押し込みがちです。押し込むほど音が固くなり、疲れも溜まります。疲れると練習が止まります。
フォームを整えると、音の出方が変わります。指先だけで出す音ではなく、腕の重さを使った音になる。音が整うと、曲っぽく聞こえます。曲っぽく聞こえると、練習が報酬になります。本書は「本格的な演奏への第一歩」をうたいますが、その第一歩はフォームだと思います。
収載曲と付録が、日常のモチベーションになる
収載曲には、童謡、クラシック、CMで聞いた曲など、なじみのある曲が含まれます。なじみがあると、音が頭に残っています。頭に残っている音と、実際の音の差が分かります。差が分かると修正できます。
巻末付録には、手軽に弾けるレパートリーが3曲あります。加えて「チャイム」や「時報」といった、よく耳にする“音ネタ”も収載されます。最後に、コード一覧表と強弱記号一覧も付く。練習中に迷いが出たとき、戻れる場所があるのは助かります。
また、新たな習い事として始めたい人だけでなく、久しぶりにピアノを弾きたい人、イベントで簡単な1曲を披露したい人にも向く、と説明されています。目的が「上級へ一直線」ではない。生活の中で使える範囲を増やす。そういう設計です。
付録のコード一覧や強弱記号一覧は、読むための資料としても便利です。レッスンに通っていないと、こうした記号は「見たことはあるが意味が曖昧」になりがちです。曖昧さが残ると、表現が単調になります。表現が単調だと、弾いていて飽きます。本書は、その飽きを防ぐ材料も置いていると感じました。
まずは「練習ループ」を固定すると続きやすい
独学で続けるには、練習の形を決めるのが早いです。本書は動画があるので、ループを作りやすい。
- Exを短く弾く
- 動画で動きを確認する
- 練習曲でまとめて弾く
- 付録で好きな音ネタを弾く
最後に「好きな音」を鳴らすと、練習が終わりの良い体験になります。終わりが良いと、次も座れます。大人の練習は、気合いよりも仕組みが効きます。
類書比較:譜読み中心の入門書より「フォーム」と「確認」が厚い
入門書の多くは、譜読みの説明に寄ります。もちろん必要です。ただ、初心者が最初に困るのは、体の動かし方です。指だけで弾こうとして詰まる。腕が固まる。肘が動かない。本書は、腕や肘の使い方へ触れ、フォームの習得を重視します。
さらに、QRコードで動画を見られる点が大きいです。紙だけの教本は、確認手段を別に用意する必要があります。本書はその手間を減らします。結果として、独学の継続率が上がりやすい。ここが類書との差だと感じました。
こんな人におすすめ
- ピアノを始めたいが、楽譜に苦手意識がある人
- 独学で進めたいので、動画で確認できる教材が欲しい人
- 最終的に両手で簡単な曲を弾けるようになりたい人
ピアノは、続けた人が勝つ趣味です。本書は、続けるための「迷いの少ない道」を用意してくれる教科書でした。