レビュー
概要
『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』は、ジェーン・スーが「結婚したいのに、なぜか話が進まない」人たちの空気を、痛いほど具体的に言葉にしたエッセイです。タイトルだけ見ると婚活ハウツーのようですが、実際はもっと観察眼の鋭い人間洞察本に近いです。
本書の面白さは、「女性がやってしまいがちな失敗集」として上から整理するのではなく、恋愛や結婚をめぐる見栄、保身、思い込み、自己演出のズレを、当事者のあるあるとしてえぐってくるところにあります。しかも、その切れ味がかなり鋭いのに、笑いながら読める。そこがジェーン・スーらしいです。
ポプラ社の紹介でも、この本は“逆”結婚指南書として位置づけられています。普通の指南本が「こうすれば愛される」と言うのに対して、本書は「なぜ話がこじれるのか」「なぜ自分で選択肢を狭めてしまうのか」を先に見せる。その順番がとても現実的です。
読みどころ
1. 「理由」が多いほど、結婚観の歪みが見えてくる
本書はタイトル通り、プロポーズされない理由を次々に挙げていきます。この形式がうまいです。一つひとつの項目は短めでも、読み進めるうちに「結婚できない/されない」の問題が、性格一つで説明できる話ではないと見えてきます。
選ぶ基準、選ばれたい気持ち、周囲の圧力、恋愛市場の空気、自意識、プライド。いろいろな要素が少しずつ噛み合わないまま積み上がるから、気づけば関係が前に進まない。本書はその複雑さを、説教ではなく観察で見せてくれます。
2. 毒があるのに、読後は妙に前向き
ジェーン・スーの文章は、かなり容赦がありません。耳が痛い指摘も多いですし、「分かるけど、今そこ突く?」と思う瞬間もあります。
それでも嫌味だけで終わらないのは、著者が恋愛市場の勝者として振る舞っていないからです。どこかで自分もその滑稽さの輪の中にいると分かっている書き方なので、読者は裁かれる感じではなく、一緒に笑われている感じで読める。だから痛いのに読めるし、読んだあとに少しだけ肩の力が抜けます。
3. 結婚本というより、ジェンダーと自意識の本
本書を婚活本としてだけ読むのはもったいないです。面白いのは、結婚という出来事を通じて、社会が女性に期待している役割や、当人が内面化してしまった「こうあるべき」が露出するところです。
プロポーズがテーマなのに、読んでいて考えさせられるのは、恋愛だけではありません。年齢の焦り、周囲との比較、女らしさの演出、相手に求める条件、自分を棚上げする心理。かなり広い範囲の“生きづらさ”がここに詰まっています。
本の具体的な内容
本書は、いわゆるストーリー仕立ての長編エッセイではなく、理由を積み上げる構成が核です。そのため、一章ごとの起伏で読ませるというより、「この理由、他人事じゃないな」「前の理由とつながってるな」と読者の自己認識をじわじわ揺らしていくタイプの本になっています。
ポプラ社の紹介にある通り、「結婚したい女性が知らず知らずのうちにやってしまうこと」を軸にしていますが、実際には単純な原因分析ではありません。相手のせいにしきれないこと、自分でも認めたくないこと、でも見なかったことにはできないことが、小気味よく並んでいきます。
また、本書が単なる悪口大会にならないのは、語り口にエンタメ性があるからです。ジェーン・スーは、人の弱さを告発するより、まず観察して、少し離れた位置からおかしみとして差し出す。その手つきがうまいので、読み手は反省と笑いを同時に受け取れます。
短い項目で区切られているので、通勤中や寝る前にも読みやすいです。ただ、さらっと読めるわりに、刺さる箇所はかなり刺さる。軽い本だと思って開くと、思った以上に自意識をえぐられるかもしれません。
類書との比較
婚活本や恋愛自己啓発本には、「モテるための行動」や「男心の正解」を提示するものが多いです。本書はそこからかなり距離があります。方法論より前に、そもそもその“正解”を欲しがっている自分の構造を見に行く本だからです。
また、ジェンダー論の本ほど理論武装していないのに、読み終えるとかなり社会的な圧力まで見えてくる。この軽さと深さの両立が、本書のいちばん強いところだと思いました。恋愛本としても社会観察本としても読めるのが独特です。
こんな人におすすめ
- 恋愛や結婚の話題になると急に息苦しくなる人
- 婚活本の「正しい努力」っぽさに疲れた人
- ジェーン・スーの毒とユーモアが好きな人
- 自分の恋愛観を少し引いた位置から見直したい人
逆に、ひたすら優しく慰めてくれる本を求めている人には、少しきついかもしれません。優しさはありますが、まず先に切れ味が来る本です。
感想
この本を読んでいちばん良かったのは、「結婚できる/できない」という雑な二択に回収されないことでした。問題はそこではなく、その二択に自分がどれだけ振り回されているかなんですよね。
ジェーン・スーは、その振り回され方をかなり容赦なく書きます。でも、読後には不思議とみじめさが残りません。笑いながら、自分のこじれ方を少し客観視できるからです。
恋愛エッセイとしても面白いですが、個人的には“自意識の棚卸し本”としてかなり優秀だと思いました。20代後半以降で、周囲の結婚や将来設計に気持ちがざわつくことがある人には、とても相性のいい一冊です。