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レビュー

概要

『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』は、スキンケアの本であると同時に、喪失と自己回復のエッセイでもあります。父を亡くしたあと、ふと映った自分の顔に父の面影を見てしまう。その違和感と衝撃をきっかけに、自分の顔や身体にあらためて触れていく過程が描かれます。美容のハウツーより、肌に触れる時間を通して自分を回収していく話として読むのがしっくりきます。

この本の面白さは、スキンケアを「きれいになるための技術」だけとして扱っていない点です。むしろ、自分を見たくない時期に、どうやって再び鏡の前に戻るか。どうやって自分の顔に責任を持てるようになるか。その静かな再出発の話になっています。

読みどころ

読みどころは、スキンケアの手順と感情の整理が結びついている点です。

化粧水をつけ、乳液をなじませる行為自体、特別なものではありません。

それでも本書だと、「自分に触れることを許す」動作として立ち上がります。

悲しみや混乱をいきなり言葉にできないとき、身体に触れる時間のほうが先に回復を始めることがある。そう感じられるところがとても実感的です。

また、喪失の描き方が過剰にドラマチックではないのも良いところです。深い痛みを扱ってはいますが、それを大声で説明する本ではありません。だからこそ、同じように身近な人を亡くした経験のある読者や、自分の輪郭がぼやける時期を過ごしたことのある読者に静かに届きます。

さらに、美容エッセイとして読んだときにも独自性があります。どのアイテムが優秀かという商品評価より、肌と気分の関係、触れ方の意味、毎日の微細な変化に目を向ける話が中心です。そのため、スキンケアに詳しい人にも、逆にほとんど興味がなかった人にも、それぞれ違う入口で読める本になっています。

本書の重要ポイント

本書の重要ポイントは、セルフケアを自己管理や自己改善ではなく、「自分を見捨てないための動作」として描いていることです。疲れている時や傷ついている時ほど、自分のことは後回しになります。鏡を見るのもしんどい。しかし本書は、肌に触れる数分を、立て直しの最小単位として示してくれます。

もうひとつは、見た目の変化以上に、感情の置き場所が少しずつ変わっていく過程が描かれていることです。スキンケアを頑張れば全部が解決するわけではありません。それでも、毎日同じように手を動かすことが、自分を少し現実へつなぎ直す。この感覚は、美容本の文脈では意外と珍しいです。

類書との比較

一般的な美容本やスキンケア本は、肌悩みへの対処法や商品の選び方を中心にします。本書はそこから大きく外れています。手入れの方法は出てきますが、主役は肌ではなく、肌に触れる人間のほうです。美容情報として読むより、喪失や再生をめぐるエッセイとして読んだほうが豊かに受け取れます。

また、喪失のエッセイの中でも、思い出を言葉でたどるだけでなく、身体感覚から回復へ向かう点が特徴的です。感情だけでなく、皮膚感覚や鏡に映る像を通して自分を語っているので、読み味がかなり新鮮です。

こんな人におすすめ

身近な人との別れのあとで、自分の生活や見た目を立て直すきっかけを探している人におすすめです。スキンケアに詳しい必要はありません。むしろ、美容に強い関心がない人でも、自分に触れる時間の意味を考えたいなら十分読めます。

また、セルフケア本の理屈が重く感じる人にも向いています。本書は「整え方」を教えるより、「整え直していく気持ち」を描く本だからです。

美容に関心が高い人はもちろんですが、化粧品の知識がほとんどない人でも読めます。本書の核は商品比較ではなく、自分の身体へ戻っていく過程だからです。だから、読む側の経験値をあまり問いません。

感想

この本を読むと、スキンケアは美容のためだけでなく、自分の輪郭を取り戻すための行為にもなりうるのだと感じます。悲しみを完全に消すことはできなくても、毎日少しずつ自分の顔に戻ってくることはできる。その感覚がとても丁寧に描かれていました。

読後に華やかな高揚感が残る本ではありませんが、静かな回復の手触りがあります。落ち込んでいる時期にそっと効く、珍しいタイプのセルフケア本です。

うまく言葉にできない悲しみを抱えている時、こういう本は理屈を超えて助けになります。

肌に触れる日常の動作を通じて、自分を少しずつ取り戻していく感覚が描かれます。そうした感覚を求める人へ勧めたい一冊です。

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    佐々木 健太

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