レビュー
概要
『ずーっとずっとだいすきだよ』は、男の子と犬のエルフィーが一緒に育ち、やがて老いと別れを迎えるまでを描いた絵本です。明るい日常から始まるので、最初はやさしい生活の絵本のように見えます。しかし読み進めると、歳をとること、弱っていくこと、そして大切な相手に言葉を伝えておくことの重さが、静かに胸に残ります。
この絵本が特別なのは、死を必要以上にぼかさないことです。犬が年をとり、前のように走れなくなり、やがて死ぬ。その現実を子ども向けだからとごまかさず描きます。そのうえで、主人公が「ずーっとずっとだいすきだよ」と言い続けていたことが、別れの場面で大きな意味を持ちます。悲しいのに、読み終えたあとに不思議と温かさが残る本です。
読みどころ
読みどころは、エルフィーが「ただのペット」ではなく、主人公にとって一緒に時間を重ねてきた家族として描かれていることです。小さい頃は自分より大きかった犬が、いつのまにか老いて、動きが鈍くなり、前と同じことができなくなる。その変化が大げさではなく自然に描かれるので、子どもでも「年をとる」とはどういうことかを受け止めやすいです。
もう1つ大事なのは、主人公が日頃から「だいすきだよ」と言葉にしていることです。家族や友達への愛情は、分かっているはずだから言わなくてもいいと思ってしまいがちです。しかしこの絵本は、伝えておくことそのものに意味があると教えます。別れのあとで主人公が少し救われるのも、その言葉を言えていたからです。ここが本書のいちばん強い部分だと思います。
絵本としての文章は短く、絵もやさしいので、小さな子どもにも読み聞かせしやすいです。それでいて、大人が読むと別の深さがあります。死を初めて学ぶ子どもにとっては入口になり、大人にとっては、伝えそびれている気持ちを考えさせる本になります。
作中で特別に大きな事件が起こるわけではありません。だからこそ、老いていく犬の変化が現実に近く感じられます。元気だった相手が少しずつ弱っていくこと、ある日いなくなること、その前にできることが限られていることを、静かなページの積み重ねで伝えます。この「静けさ」が本書の強みです。
類書との比較
死や別れを扱う絵本は、説明的になりすぎるか、逆に抽象的になりすぎることがあります。本書はその中間で、日常の延長として別れを描くのがうまいです。説教くさくなく、でも軽くもない。だから、初めて死を考える子どもにも届きやすいし、大人が読んでもごまかされた感じがありません。
また、「命の大切さ」を直接教える本というより、「大切な相手に気持ちを伝えておくこと」の本でもあります。この視点があるので、ペットとの別れだけでなく、家族や友達との関係を見つめ直す絵本としても読めます。
似たテーマの絵本の中には、死後の世界や慰めのイメージを前面に出すものもあります。本書はそこへ逃げず、まず現実の別れを受け止めさせます。そのうえで、言えた言葉が残るという希望を置くので、悲しみの扱い方がとても誠実です。
こんな人におすすめ
ペットを飼っている家庭や、子どもに「死」についてどう伝えるか迷っている家庭には特に向いています。また、読み聞かせをしながら愛情表現の大切さを自然に伝えたい人にも合います。別れの絵本ではありますが、ただ悲しいだけの本ではないので、小学校低学年くらいまでの読み聞かせにも使いやすいです。
保育や小学校の読み聞かせでも使いやすいと思います。読んだ直後に深い説明をしなくても、子どもは「だいすきって言うのは大事なんだ」と自然に受け取れます。重いテーマでも、日常の言葉に戻して話せるのがよいです。
感想
この絵本を読むと、別れの悲しさそのものより、「言えていてよかった」という感覚が強く残ります。大切な相手に気持ちを伝えるのは、相手のためであると同時に、自分のためでもあるのだと分かります。子ども向けの絵本なのに、大人の方が深く刺さる場面も多いです。
読み聞かせで使うなら、読み終わったあとに「だいすきって言ったことある?」と自然に会話を広げやすいのもいいところです。命の教育の本としてだけでなく、家族の言葉の本としてもとても優秀です。長く残る絵本を探している人に薦めたい一冊です。
悲しみを和らげる本というより、悲しみの前に何ができるかを教える本でもあります。だからこそ、別れを経験した後だけでなく、いま一緒に暮らしている時間の中で読む価値があります。子どもには愛情を言葉にする大切さが伝わり、大人には伝えるタイミングは今なのだと気づかせてくれる絵本でした。
特に、ペットとの暮らしを「いつもの日常」として過ごしている家庭ほど、この本の効き方は大きいと思います。毎日が続くように見えるからこそ、伝えられるうちに伝える。本書はそれを怖がらせるのでなく、やさしい形で思い出させてくれます。
ページ数は多くありませんが、読み終えたあとに家族の会話が少し変わるタイプの絵本です。命や別れを説明するためだけでなく、今そばにいる相手への言葉を増やすためにも手元に置いておきたい一冊でした。