レビュー
概要
『良い戦略、悪い戦略』は、「戦略」という言葉が曖昧なまま使われることで、組織がどれだけ遠回りするかを痛烈に示しつつ、良い戦略の条件を“構造”で教えてくれる本です。
戦略がうまくいかない場面では、よく次のような症状が出ます。
- 目標は立派なのに、行動が散る
- 施策が増えるほど、現場が苦しくなる
- 「選択」がなく、全部やろうとして失速する
本書は、その原因を「戦略の欠如」ではなく、**悪い戦略(戦略っぽいのに中身がない状態)**として言語化します。
読み終えたあと、戦略会議の議論の質が上がるタイプの一冊です。
読みどころ
1) 良い戦略は「核(カーネル)」がある
本書で繰り返し出てくる中心は、良い戦略の核が次の3点で構成されることです。
- 診断:何が本当の問題か(敵は何か)
- 基本方針:どう勝つのか(方向性)
- 整合する行動:方針に沿った打ち手(噛み合い)
この3つが揃うと、戦略はシンプルになり、やることが減ります。逆に、ここがないと「スローガン」「目標の羅列」「願望」で埋まり、現場が疲れます。
2) 悪い戦略は“立派な言葉”で現実から目を逸らす
悪い戦略は、怠慢ではなく“逃避”として現れるのが厄介です。たとえば、「顧客第一」「イノベーション」「成長」など、反対しにくい言葉で満たされる。
でも、現実に必要なのは「どこで勝つか」「何を捨てるか」「最初に何をするか」です。本書は、耳触りの良い言葉が増えたときほど危険だと教えてくれます。
3) 強みは「ある」ものではなく「作る」もの
読み応えがあるのは、強みを“棚卸し”ではなく、問題設定と資源配分の結果として扱う点です。
強みがあるから勝つ、ではなく、勝つために強みが育つ設計をする。この視点が入ると、現場の改善の順番が変わります。全部を同時に改善するのではなく、核となる制約へ集中し、強みが積み上がる方向に寄せる。実務で効く考え方です。
類書との比較
戦略本の多くは、フレームワークの使い方や、市場分析の方法を教えてくれます。本書はそこよりも前に、「戦略とは何か」を定義し直し、悪い戦略を見抜く“検査項目”を与えてくれる点が特徴です。
『ストーリーとしての競争戦略』が因果の流れを太くする本だとすると、本書はまず「核を作れ」と言う本。どちらも、戦略を“施策の寄せ集め”にしないための補助線になります。
こんな人におすすめ
- 戦略会議が「理想論」や「目標の宣言」で終わりがちな組織
- 施策が増えて管理しきれず、疲弊しているチーム
- 新規事業や改革プロジェクトで、まず一手目を決めたい人
- KPIやロードマップが増えたのに、成果が伸びないと感じる人
感想
この本を読んで一番刺さったのは、「戦略がない」より「悪い戦略がある」方が危険だという点です。
何もないなら作り直せます。でも、立派な言葉で埋まった“戦略っぽい何か”があると、誰も反対できずに突き進んでしまう。その結果、現場が消耗し、後戻りが難しくなる。これは本当に起きやすい。
本書は、戦略を美化せず、現場で使える“形”に落としてくれます。読後に残るのはモチベーションではなく、議論の基準です。そこが実用書として強いと思います。
実践:悪い戦略を止める5つの質問
会議で使えるチェックとして、次の質問を置いておくのがおすすめです。
- 本当の問題は何か?(症状ではなく原因)
- 「やらないこと」は何か?(選択と集中)
- 最初の一手は何か?(明日動ける行動)
- 打ち手は互いに噛み合っているか?(整合性)
- その戦略で勝てる理由は説明できるか?(願望ではなく因果)
戦略の質は、資料の厚さではなく“問いの鋭さ”で上がります。戦略を言葉だけで終わらせたくない人に、強くおすすめできる一冊です。
悪い戦略のサイン(会議で見抜くチェック)
「悪い戦略」は、はっきりと“悪い”顔をして現れません。むしろ、立派で、反対しにくい形で出てきます。会議で次のサインが増えたら、黄色信号だと感じます。
- 課題が曖昧なまま、目標だけが高い(診断がない)
- 施策が増えるほど安心する(選択がない)
- 責任が分散し、誰も最後まで持たない(整合の欠如)
- 「とにかく頑張る」が戦略になっている(方針がない)
- 競合や顧客の現実より、社内の都合が中心(問題設定がズレる)
本書の効き目は、こうした状態を「気合が足りない」ではなく「戦略の形が崩れている」と判断できるようになることです。
実践:カーネルを1枚にまとめる(最小フォーマット)
読みながら、次のフォーマットを埋めるだけでも効果があります。文章は雑で構いません。重要なのは“空欄を残さない”ことです。
- 診断:今、何が問題で、なぜ起きているか(3行)
- 基本方針:勝ち筋の方向性(1行)
- 整合する行動:今期にやること3つ/やらないこと3つ
これを作ると、会議で「それは診断に効く?」「方針と整合してる?」と問い返せます。
戦略を“議論の道具”として扱える感覚が残る。そこがこの本の強みだと思います。