『星を継ぐもの新版』レビュー
出版社: 東京創元社
¥792 ¥862(8%OFF)
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『星を継ぐもの』は、SFでありながら「科学ミステリ」と呼びたくなる一冊です。月面で発見された、あり得ないはずの“遺体”。その謎を解くために、科学者たちが仮説を立て、検証し、また崩す。読んでいる側まで、思考の実験に参加している感覚になります。
派手な宇宙戦争が中心ではありません。面白さの核は、データの読み解きと推論の積み上げです。それがちゃんとエンタメとして成立しているのが、この作品の凄さだと感じました。
物語の導火線はシンプルです。「存在しないはずのもの」が見つかった。そこから先は、感情ではなく、証拠が物語を動かします。だからこそ、読み終えるまでの没入感が強いです。
本書の快感は、仮説の更新にあります。
ひとつの仮説が立つと、いったん納得します。でも新しい証拠が出て、崩れる。崩れたあとに「じゃあ何が残る?」と考える。これを何度も繰り返すので、読者の頭も勝手に動きます。
天才がひらめいて解く話ではありません。専門の違う人たちが、データを持ち寄り、議論し、穴を突く。科学の現実に近いと思います。
このチーム戦があるから、謎解きが独りよがりにならず、論理が締まります。議論の積み重ねが、そのまま物語の推進力になっています。
この作品は、読み終えてから効きます。
直感で決める前に、仮説を言葉にする。反証の可能性を置く。データの解釈を分ける。そういう思考の癖が、物語の中で自然に刷り込まれます。
本書は、仮説が外れる場面を隠しません。むしろ、外れ方が痛快です。
なぜなら、外れた理由が「バカだったから」ではなく、与えられたデータの範囲では合理的だったからです。合理的な推論が、次のデータで崩れる。科学が前に進む瞬間が、エンタメになっています。
謎のあるSFは多いですが、本書は「科学的に解く」比重が高いです。その分、ロマンスや情緒で引っ張る作品とは読後感が違います。
理屈が好きな人には刺さります。一方で、人間ドラマ中心のSFが好きだと、乾いた印象を受けるかもしれません。ただ、その乾きがこの作品の魅力でもあります。
また、同じ「謎」を扱う作品でも、本書は「説明を盛って感動で押す」方向に行きません。説明は説明として積み上げる。その誠実さが、読み手の信頼を作ります。
逆に、情緒で引っ張る作品を求めると、最初は淡々と感じるかもしれません。けれど、その淡々さがあるからこそ、証拠の積み上げは爽快に感じられます。
この本を読んで思ったのは、「面白い推論には、根拠の階段がある」ということです。
最初は荒唐無稽に見えるのに、証拠が積み上がると現実味が出てくる。しかも途中で何度も崩れる。崩れ方が気持ちいい。そういう“考える娯楽”でした。
忙しい日々だと、考えること自体が重荷になります。でも本書は、考えることを回復させてくれるタイプの娯楽だと思います。
個人的には、理科や数学が得意だったかどうかは関係ないと感じました。必要なのは、筋の通った推論を追いかける楽しさです。むしろ「理屈っぽい話が好き」という性格の方が刺さりやすいと思います。
読みながら次の3つをやると、本書の面白さが倍になります。
SFを楽しみながら、思考の筋トレもできる。そういう珍しい一冊です。
さらに続けたい場合は、登場人物の「専門」を意識すると理解が進みます。誰がどの視点で何を見ているのかがわかると、議論の噛み合い方が見えてきます。チーム戦の良さが、よりくっきりします。
読み終えたら、仕事や家庭の悩みを1つだけ同じ型で考えてみるのもおすすめです。「仮説→検証」の形に落とすだけで、悩みが少し扱いやすくなります。
物語でここまで「考える楽しさ」を味わえる本は、意外と多くありません。強くおすすめします。