レビュー
概要
『サプリ』1巻は、広告業界で働く女性の仕事と恋愛、そして心身の消耗を描いた漫画です。タイトルだけ見ると健康や栄養の本のように見えます。けれど、この作品での「サプリ」は、すり減りながら働く大人の心を支える栄養という意味合いが強いです。主人公は広告会社で忙しく働き、企画、プレゼン、終電、深夜の食事といった毎日を回しながら、自分の感情や人間関係に追いつけなくなっていきます。
この1巻の魅力は、華やかな仕事の裏側にある疲労や空虚さを、大げさな演出なしで描くところです。仕事ができることと満たされていることは別です。恋愛があるから孤独ではない、というわけでもありません。そうしたズレが、主人公の生活の細部からじわじわ見えてきます。
読みどころ
読みどころは、広告会社という現場が単なるおしゃれな舞台装置で終わらないことです。企画を通す緊張感、締切に追われる日々、クライアントの期待に応え続けるしんどさがきちんとあります。そのうえで主人公の恋愛や自己評価が揺れるので、仕事漫画として手応えがあり、恋愛漫画として読んでも薄くありません。
また、主人公が「自立した大人の女性」に見えながら、実際にはかなり不安定な状態で生きているところもリアルです。誰かに頼りたいのに頼りきれない。仕事では強く振る舞えるのに、私生活では自分の気持ちをうまく言えない。そのアンバランスさが、この漫画を単なるキラキラ系の恋愛物にしていません。
絵の空気感も大きな魅力です。都会のオフィス、部屋、食事、服、視線の交わし方に至るまで、洗練されているのに生活の疲れがにじむ。そのため、登場人物のセリフ以上に、コマの間や表情から気持ちが伝わってきます。読んでいると、「言葉にできない消耗」を描くのがうまい漫画だと感じます。
広告という仕事の性質もよく効いています。人の心を動かす企画を作る仕事だからこそ、自分自身の気持ちが置き去りになっていく皮肉がある。誰かの消費や憧れを設計する側にいるのに、自分の生活は整わない。このねじれが、主人公の疲れに説得力を与えています。
類書との比較
働く女性を描く漫画は多いですが、本作は仕事の達成感だけでなく、そこからこぼれる孤独や摩耗をかなり正面から描きます。仕事を頑張る女性を応援する漫画というより、頑張っているからこそ空っぽになる瞬間を描く漫画です。その繊細さは、同じ業界ものや恋愛ものの中でもかなり独特です。
また、恋愛のときめきより、関係の温度差やすれ違いの方に重心があるのも特徴です。だから、爽快な成長物語や分かりやすい恋愛成就を期待すると少し違うかもしれません。その代わり、「大人の生活の中で感情がどうすり減るか」を読みたい人にはとても刺さります。
同じ働く女性ものでも、本作は「頑張る私、かっこいい」という方向へあまり逃げません。むしろ、頑張っているのに救われない夜や、ちゃんとして見える人ほど抱え込んでしまう孤独を見せます。そこに、おかざき真里の作品らしい苦味があります。
こんな人におすすめ
仕事と私生活の両方で消耗している人におすすめです。特に、忙しく働いているのに満たされない感じがある人、恋愛と仕事のバランスに悩んだことがある人には響きやすいです。広告業界に限らず、都心で働く大人の疲れに心当たりがある人ならかなり入りやすいと思います。
逆に、明快な爽快感や一気に前向きになれる物語を求める人には少し重いかもしれません。でも、だからこそ現実に近い。大人の生活にある曖昧な不満や寂しさをそのまま読みたい人には、かなり相性がいいです。
感想
この1巻を読むと、働くことが好きでも、それだけで持つわけではないのだとよく分かります。仕事の充実と私生活の空白は同時に存在しうる。その感覚がかなりリアルで、読んでいてきれいごとでは済まない痛みがあります。そのぶん、主人公を救うものは何か、そこが気になります。どんな関係を求めているのかも気になって、次を読みたくなります。
おしゃれな漫画として読めるのに、中身はかなり苦いです。そこがこの作品の良さでもあります。仕事も恋愛も頑張っているはずなのに満たされない、という感覚を知っている人には、かなり深く残る1巻です。
読後に残るのは、恋愛のときめきより「このままの働き方でいいのか」という感覚かもしれません。だから、キャリアや恋愛の選択を考え直したい時期に読むと効きます。きれいな絵柄の奥に、大人の生活のしんどさがしっかり入った作品です。
広告業界の話でありながら、読後に残る疲れはかなり普遍的です。働くことが嫌いなわけではないのに、働き方と人間関係の積み重ねで少しずつ削られていく感覚を知っている人なら、この1巻の苦さはかなり身近に感じるはずです。
読み返すと、主人公が完全に壊れる前の小さな違和感が丁寧に拾われているのも分かります。だからこそ、働くことに慣れた大人ほど「この疲れ方は他人事ではない」と感じやすい。おしゃれさとしんどさが同じ画面にあるところが、この作品の強さです。