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レビュー

概要

『ツミデミック』は、一穂ミチさんがコロナ禍の数年間を背景に、人が追い込まれたときにどんな「罪」へ傾くのかを描いた短篇集です。国会図書館サーチでは著者は一穂ミチさん、出版社は光文社と確認できます。書誌情報サイトでは、「違う羽の鳥」「ロマンス☆」「憐光」「特別縁故者」「祝福の歌」「さざなみドライブ」の6編を収録していることも分かります。パンデミックそのものを記録する本ではなく、その状況下で露出した人間の弱さや欲望、切実さを見つめる小説です。

この本の面白さは、コロナ禍をただの時代背景にしていないところです。外出制限、隔離、仕事や家庭の不安、他人への警戒、分断、そして先の見えなさ。そうした圧力の中で、人は何を守ろうとし、何を壊してしまうのか。本書はそれを「犯罪小説集」というかたちで扱いながら、単純な犯人探しにはしません。どの短編でも、罪は突然空から降ってくるのではなく、追い詰められた日常の延長でにじみ出てきます。

本の具体的な内容

収録作の題名を見るだけでも、本書が1つのトーンに固定されていないことが伝わってきます。「違う羽の鳥」や「ロマンス☆」のように軽やかにも見える題があれば、「憐光」「特別縁故者」「祝福の歌」のように、関係性や制度のひずみを思わせる題もある。実際、コロナ禍で起きた罪は、暴力や詐欺のように分かりやすい形だけではありません。孤独や不安、善意の押しつけ、正しさへの執着、家族への距離感の狂いといったものが、人をじわじわ逸脱へ追いやる。本書はそのグラデーションを短編ごとに違う角度から切り取っているはずです。

とくにうまいのは、読者に「自分は違う側の人間だ」と簡単に思わせないところだと思います。パンデミックの最中、多くの人は生活を守るために判断を急ぎ、誰かを疑い、誰かの事情を切り捨て、逆に自分が守られる側であることを当然視していました。本書は、そうした当時の空気を犯罪や逸脱というかたちで可視化しながら、その根っこにある感情の揺れを丁寧に掘ります。だから読後に残るのは、犯人への怒りより、自分にも同じ弱さがあるかもしれないという居心地の悪さです。

また、短篇集という形式も効いています。長編だと1つのドラマに収斂しがちなテーマを、別々の人物、別々の状況、別々の温度で反復できるからです。コロナ禍の記憶は人によってまるで違います。仕事を失った人、家庭に閉じ込められた人、孤独に耐えた人、正しさを振りかざした人。6編を並べることで、本書はその多面性を保ったまま「時代の罪」を描けます。ここが単一の社会派小説より強い点です。

類書との比較

パンデミックを題材にした小説は少なくありませんが、本書は教訓や感動でまとめに行かないところがよいです。読者を泣かせるためではなく、あの時期に社会の表面へ浮いてきた裂け目を見せるために書かれている。人情話や告発文のように単純化せず、罪の生まれ方を静かに追う独特の手触りがあります。

しかも、本書は「コロナ禍だからこうなった」と単純化しません。非常時に表へ出たものの多くは、社会や個人の奥底で前からくすぶっていた傷や欲望です。パンデミックはそれを拡大して見せただけかもしれない。そう読めるから、この短篇集は時事ネタで終わらず、後から読み返しても効くのだと思います。

こんな人におすすめ

  • コロナ禍を題材にした小説を、記録ではなく人間理解として読みたい人
  • 短編で切れ味のある現代小説を探している人
  • 社会の空気が個人の倫理をどう変えるかに関心がある人

感想

この本を読むと、パンデミックの記憶は単に「大変だった」という一言では片づかないと改めて感じます。あの時期に人が抱えた不安や自己正当化、善意と残酷さの混ざり方は、時間がたつほど見えにくくなります。本書はそこを、犯罪や逸脱の形で鋭く切り取ります。でも冷酷ではありません。誰かを断罪するより前に、極限状態の中で人がどれだけ脆く、同時にどれだけ切実だったかを見せてくれる。時代小説ではなく、時代の心理を残した短篇集として、かなり印象に残る一冊です。社会が平常へ戻ったあとに読むと、むしろ人間観察の鋭さが際立ちます。ニュースでは拾い切れなかった感情の層を、小説だからこそ残せた作品集だとも感じました。6編それぞれの温度差が、あの時代の複雑さをよく伝えています。時代を記憶する文学としても、かなり完成度が高いです。短篇集としての切れ味も見事です。余韻も長く残ります。読後のざらつきも忘れがたいです。後味も鋭く長く残ります。

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    佐々木 健太

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