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レビュー

概要

『コーチングの神様が教える 「できる人」の法則』は、成功するために何を足すかではなく、すでに成果を出している人が次の段階へ進めなくなる原因を何から引くべきかを扱った本です。原題は “What Got You Here Won’t Get You There” で、いまの成功を作った振る舞いが、次の成功を邪魔することがあるという逆説が全体を貫いています。

著者マーシャル・ゴールドスミスは、経営者やエグゼクティブへのコーチングで知られる人物で、本書も抽象論より観察の密度が高いです。対象は、まだ何もできない人ではありません。むしろ「すでに十分優秀で、結果も出しているのに、なぜか周囲からの信頼を削ってしまう人」です。だから読んでいると、自分の弱点を新しく発見するというより、普段は能力の陰に隠れている癖を突きつけられる感覚があります。

読みどころ

最大の読みどころは、リーダーや有能な実務家が陥りやすい悪癖を非常に具体的に列挙している点です。本書では、勝ちにこだわりすぎる、余計な一言で自分の価値を足そうとする、すぐ善し悪しの判断を下す、怒っているときに話す、否定語から入る、情報を抱え込む、人の話を最後まで聞かない、感謝や謝罪を十分に示さない、他人の手柄を奪う、言い訳をする、といった行動が次々と示されます。どれも派手な失敗ではありません。むしろ、日常の会話の中で「ついやってしまう」小さな癖です。そこを細かく扱うからこそ刺さります。

中でも面白いのは、「能力が高い人ほど、相手に何かを足したくなる」という指摘です。会議で補足しすぎる、部下の言葉にすぐ訂正を入れる、良かれと思って正解を早く渡す。本人には善意があっても、相手からすると「否定された」「奪われた」と感じやすい。著者はこれを単なるマナー違反ではなく、上位職ほど破壊力の大きい習慣として扱います。この見立てはかなり鋭いです。

さらに本書は、問題の指摘だけで終わりません。変化のために必要なのは、自己反省の深さより、継続的なフィードバックとフォローアップだと示します。自分一人で完璧に変わろうとするのではなく、周囲に改善したい点を宣言し、その後の行動を見てもらう。いわゆる360度フィードバックや、未来志向の助言を受ける「フィードフォワード」の発想がここで効いてきます。過去をくよくよ分析するより、次にどう振る舞うかへ意識を向ける構成が実践的です。

また、本書が優れているのは、悪癖の多くが性格ではなく習慣だと整理していることです。「自分はこういう人間だから」で済ませず、相手の話を最後まで聞く、否定から入らない、謝るべき場面で素直に謝る、成果を横取りしない、といった当たり前の行為を徹底して見直させる。派手な能力開発より地味ですが、周囲の信頼を決めるのは結局こういう部分だと分かります。

類書との比較

一般的なリーダーシップ本が、ビジョン、戦略、影響力、思考法といった「強みの拡張」に重心を置くのに対し、本書は徹底して「邪魔な癖の除去」に寄ります。だから、読後感も少し違います。元気づけられるというより、背筋が伸びる。できる人の習慣を学ぶ本というより、できる人が無意識にやっている減点行動をやめる本です。

同じコーチング系の本でも、『ヤフーの1on1』や『実践! 1on1ミーティング』が部下との対話の場をどう作るかに焦点を当てるのに対し、本書はリーダー本人の振る舞いの矯正に重心があります。対話の技法の前に、上司自身の悪癖を減らしたい人にはこちらのほうが効きます。

こんな人におすすめ

役職が上がるほど周囲が本音を言ってくれなくなったと感じる人、指摘や助言は多いのに人が育たない人、会議で自分が話しすぎている自覚がある人に向いています。能力不足より、能力の使い方の癖が問題になってきた中堅以上のビジネスパーソンほど刺さるはずです。逆に、まだ仕事の基本動作を学ぶ段階の人には、少し早いかもしれません。

感想

この本のよさは、「できる人ほど危ない」という不都合な事実を曖昧にしないところです。成果を出している人は、過去のやり方が肯定されてきたぶん、自分の癖を修正しにくくなります。だからこそ、ほんの小さな口癖や態度が、組織にとっては大きなノイズになる。本書はそこをかなり容赦なく示しますが、読み味は説教というより観察報告に近いです。

特に残るのは、「余計な価値を足そうとしない」という視点でした。正しさを示したい、賢さを見せたい、すぐ結論を言いたい。そうした癖は、能力の高さの裏返しでもありますが、関係性の面ではしばしば逆効果です。本書は、成功者の次の課題は新しい能力の獲得より、すでに持っている強さの暴走を抑えることだと教えてくれます。管理職や専門職が長く成果を出し続けるための「引き算の自己改善本」として、かなり完成度の高い一冊でした。

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    佐々木 健太

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