レビュー
概要
『アフターデジタル2 UXと自由』は、デジタル化を単なる効率化ではなく、顧客体験と社会の変化として捉え直す本です。著者の藤井保文さんは、前作に続いて「オンラインとオフラインが溶け合う世界」を前提に話を進めます。本書では、そこへさらに UX と自由という視点を重ねています。
本書の中心にあるのは、OMOの世界で企業が何を設計すべきかという問いです。データを集めるだけではなく、その体験が人にとって自然か、自律性を損なっていないかまで考えます。マーケティング本でありながら、プロダクト設計や組織の意思決定まで視野が広い一冊です。
読みどころ
まず面白いのは、「オフラインがなくなる世界」という見方です。店舗、接客、決済、移動、会員情報が分断されず、すべてがデータとつながる世界では、企業の競争力は単発の販促より体験全体で決まるようになります。本書は、その大きな流れを中国の先行事例なども踏まえて示していきます。
次に良いのは、UXを見た目の使いやすさへ限定していない点です。どこで出会い、どう購入し、どんな文脈で使い続けるのか。体験の連続として設計する発想が通底しているので、プロダクト、マーケティング、店舗運営を別々に考えにくくなります。
また、「自由」という言葉を抽象論で終わらせないのも本書の強みです。便利な体験は、ときに選択の余地を狭めたり、企業側の都合を押しつけたりします。本書は、データ活用が強くなるほど、ユーザーの納得感や自律性をどう守るかが重要になると示します。ここが単なるDX本と違うところです。
さらに、経営や現場の意思決定へ戻して考えられるのも実用的でした。新しい機能を作る、会員データを統合する、店舗施策をオンラインへつなぐ。そうした判断をするときに、売上だけでなく体験全体を見る視点が持てます。抽象度は高いですが、事業の方向づけにはかなり効く本です。
類書との比較
DX本の中には、ツール導入やデータ活用の成功事例に寄るものが多いです。本書はもっと土台の話をします。これからの事業では、顧客接点をどう再設計するのか。その世界観から考えさせるので、単発の施策本より長く残ります。
また、UX本よりも事業と経営へ近く、経営本よりも顧客体験へ近いです。この中間に立っているところが本書の面白さでした。
デジタル化を単なるシステム導入で終わらせたくない人には、こうした視座の高さが役立ちます。目先の施策ではなく、事業全体の前提を見直すきっかけになります。
こんな人におすすめ
DX推進、マーケティング、プロダクト企画、サービス設計に関わる担当者へおすすめです。特に、オンライン施策とオフライン施策の分断に違和感を持つ人へ向いています。経営層が読むと、顧客体験を事業戦略へ戻す視点が得やすいです。
単発のアプリ改善ではなく、事業全体の接点をどうつなぐかを考える立場の人には特に役立ちます。
また、便利さと自由の両立を考えたい人にも合います。データ活用を進めるほど見落としやすい論点を、少し引いた位置から見直せる本でした。
事業側とデザイン側の言葉がずれやすい現場にも向いています。共通の前提を持つ材料として使いやすい本です。
店舗、アプリ、会員基盤が別々に動いている企業ほど、本書の論点が刺さると思います。接点をつなげる発想を持つだけで、施策の見え方がかなり変わります。
感想
この本を読んで良かったのは、DXを「導入するもの」ではなく、「顧客体験を作り直すこと」と捉え直せる点でした。デジタル施策が増えても、体験がつながっていなければ価値になりにくい。その前提がかなりクリアになります。
もう1つ印象に残ったのは、便利さの裏側まで考えることです。使いやすい仕組みが、そのままユーザーの自由や納得感につながるとは限りません。本書はその緊張感を忘れさせません。事業を前へ進めたい人ほど、一度立ち止まって読む価値がある本だと思いました。
新しい接点を作るたびに、顧客へ何を渡して何を奪っているのかを考えたくなる本でした。DXの方向性を問い直す材料として、かなり息の長い一冊です。
短期の施策に追われていると見落としやすい前提を、もう一度立て直してくれる本でもあります。顧客体験の設計思想を深く考えたい人には残る内容でした。
数字だけでは測りにくい体験の質を、事業の中心へ戻してくれる本でもあります。DXを次の段階へ進めたい人にとって、考え方の土台になる一冊でした。