レビュー
概要
『楽典―理論と実習』は、音大受験の定番として長く読み継がれてきた楽典の学習書です。楽典というと「暗記科目」の印象を持つ人もいますが、本書は“納得できる理論”として音楽の仕組みを整理し、実習で手を動かしながら理解を固めていく構成になっています。
楽譜を読むための基礎から、音楽を作るための要素、そして和声(ハーモニー)の入り口までを、段階的に積み上げます。独学だと迷子になりがちな範囲を、1冊の地図としてまとめてくれるタイプの本です。
読みどころ
1) 「音楽の基礎」を、記号の意味から積み上げる
冒頭の「音楽の基礎」では、音符・休符、拍子、音名、音程など、楽譜という言語の基本を整えます。ここを曖昧にしたまま進むと、後半の和声や分析が急に難しくなるので、地味でも重要なパートです。
本書は“受験のために覚える”ではなく、なぜその規則が必要か、という方向に寄せているので、理解で詰まったときの戻り先になります。
2) 「音楽を作る」章で、スケールと和音を扱えるようにする
中盤の「音楽を作る」では、音階(スケール)や調性、和音の考え方が出てきます。ここで初めて、音がただ並ぶのではなく、機能や引力を持って動くものとして見えてきます。
和音の種類、転回形、終止感の作り方など、作曲や編曲の入り口に当たる要素がまとまり、楽典が“読むため”だけでなく“書くため”にも必要だと実感できます。
目次としては、I「音楽の基礎」、II「音楽を作る」、III「楽譜を読む」、IV「和声を学ぶ」という流れで、章ごとに視点が切り替わります。基礎を覚えたら作る側へ、次に読む側へ、最後に和声へ、という導線があるので、勉強の順番を間違えにくいのが助かります。
3) 「楽譜を読む」で、実際の譜面処理の精度を上げる
楽譜は読めるつもりでも、いざ初見視唱や分析になると、細部でミスが出ます。ここでは臨時記号、移調、装飾音など、読み間違いを生みやすい要素が整理されます。
学習書としての強みは、理論だけでなく“実習”があること。理解したつもりを、手を動かして検証できます。
また、受験の範囲は思った以上に広く、苦手分野を放置すると点が伸びません。本書のように章立てが明確だと、弱点を特定して戻りやすい。毎回の練習で「今回は音程」「次は調」とテーマを切り替えられるので、勉強が漫然としにくいのも良いところです。
反復するほど、楽譜の見え方が変わっていく感覚もあります。読む力と書く力が、同時に底上げされます。
4) 和声を学ぶ入口として、機能と進行の型を押さえる
後半には「和声を学ぶ」があり、和声の基本的な考え方や進行の感覚へ入っていきます。作曲や和声課題に進む人にとっては、ここが橋渡しになります。
もちろん、和声そのものを深く学ぶには専門書が必要です。ただ、和声へ向かう前提の“言葉”を揃える段階では、本書の守備範囲がちょうどいいと感じました。
和声は、単に和音を積むだけではなく、進行の説得力を作る技術です。終止の形、転調の考え方、非和声音の扱い方など、後で必ず出会う論点の入口を押さえられるので、初学者の不安が減ります。
もう1つ良いのは、受験用の学習書として「出題されやすい論点」を外していないところです。単純な暗記ではなく、なぜそうなるかを説明できる形で整理してくれるので、問題演習に入ったときの伸びが変わります。
類書との比較
楽典の本は、要点だけを箇条書きでまとめたものもあります。試験対策としては便利ですが、理解が追いつかないと応用が効きません。本書はロングセラーらしく、類書の盲点を埋める意図があり、理論の筋道を重視しています。
一方で、完全な初心者がいきなり独学で走り切ると、途中で詰まる可能性もあります。その場合は、レッスンや授業と並走しつつ、辞書として使うと効果が出やすいと思います。
こんな人におすすめ
- 音大受験や楽典試験の基礎を、体系立てて固めたい人
- 楽譜は読めるが、理論が点で繋がっていないと感じる人
- 和声や作曲へ進む前に、共通言語を揃えたい人
感想
楽典は、勉強していると「覚えることが多い」と感じがちです。でも本書を読むと、バラバラに見えていた規則が、実は同じ方向を向いているとわかります。だから、暗記の負担が少し軽くなる。
音楽を“感覚”だけで扱うのではなく、言葉で説明できるようにする。その土台を作りたい人にとって、頼りになる1冊でした。
実習があるのも大きいです。読むだけだと理解した気になってしまう部分を、書いて確かめられる。試験対策としても、音楽を深く理解するための土台としても、長く使えるタイプのテキストだと感じました。
使い方としては、1章ずつ読んで終わりにせず、実習を必ずセットにするのがおすすめです。特に調や和音の範囲は、書いて手を動かすほど理解が速くなります。知識が音に変わる感覚が出てくると、次の和声や分析へ進むときも怖くありません。