レビュー
概要
17の目標のうち、本書では特に日本社会で議論に上がりやすい「貧困」「気候」「働き方」「地方活性化」「教育」の章を中心に据えて、各章ごとに「声をかけられた人」「行政」「企業」の視点を並列で並べた構成を取る。表題からも分かるように、筆者はSDGsをビジュアルなデジタルバッジではなく、むしろ「問い直す」ものとして扱い、汎用的に使われているスローガンを鵜呑みにしない姿勢を貫く。おもに2021年ごろの日本の事例を踏まえ、パリ協定や脱炭素社会づくりと連動して動き始めた自治体のトライアル、サステナブルファイナンスでもたらされた「評価される側」のリアルな対応までを紹介する。
読みどころ
巻末の付録を除く全体の8割がケーススタディで、たとえば地方のNPOが「地元の山林をフィンテックで資金化した結果、木材業者と若い起業家の対話が生まれた」話や、某大企業が「インフラ更新をSDGs宣言に結びつけたが、地元の声を聞く本来のプロジェクトマネジメントは置き去りになっていた」という逆説的な報告を正直に掲載している。
- ポイント1:各章の冒頭に「Suggestion Checklist」があり、読者自身が自分の職場で「どの項目を社内報に載せるべきか」を判断できるようにしている。
- ポイント2:「日本のSDGsという言葉のゆらぎ」を一章まるごと使って、単語として伝播した数値だけでなく現場で測っている「実効性の数値」がどう違うのかを示した。
- ポイント3:環境・社会・ガバナンスの三本柱をそれぞれ単独で扱うのではなく、例えば森林保全の章では「女性の就労支援」と絡めて、循環型社会へのムーブメントが複数のゴールを貫いている実感を与える。
類書との比較
他の入門書、たとえば『SDGsの教科書』が国際社会の枠組みを紹介することに重きを置いているのに対し、本書は日本の現場で「目標」がどう翻訳されているかを追う。『SDGsビジネス実践ガイド』のような企業寄りの教科書と異なり、読み進めていくと行政と住民と企業が交錯する一点の視点があり、制度の仕組みだけでなく息の詰まるような会議や丸山誠一の地方政治を描いた取材記録のようなノンフィクション性がある。『つながるSDGs』のようにデザイン視点から現場を描く書籍と比べても、こちらは定量データの裏にある判断基準を丹念に拾う姿勢に特徴がある。
こんな人におすすめ
マネジメント層で「SDGsをうわべだけで語ってはいけない」と感じているリーダー、あるいは地方自治体でプロジェクトを作る担当者にとって、進め方のヒントが多い。具体的には、「持続可能性」のプレゼン資料を作り直す必要がある広報担当、SDGsの認証を取ろうとしている製造業の品質管理部門、中小企業経営者が社内に「何を守るべきか」と問い直す際のタスクリストなどにも使える一冊。教育現場なら、SDGsのパネル展示やポスターの下にこの本を置いておけば、語り口が硬すぎないので中高生にも意外と読める。 また、都市部と地方の格差を考える研究者やメディアとして、日本の最前線で持続可能性に取り組んでいる人々がどんな抵抗に直面しているかを知りたいジャーナリストにも付箋をたくさん貼れる。政策決定の場では、データ自体よりも「誰にどう説明するか」が問われているので、この本を読んでから説明すると、説得力が一段と増す。
感想
実際に読み終えてみると、タイトルの「それって本当に」の問いかけが、それ自体で読者に自省を促す。章を追うごとに、著者が国内外の報告書を整理しながら「90%の企業が指標を持っていても、実務のフォローアップがない」と書く箇所があり、現場を知らないままSDGsをきれいなパネルでしか触れてこなかった自分の感覚を知らず知らず突き崩してくれる。とくに最終章の「SDGsの緊急性」が、コロナ禍後の日本で再び問われる「誰が支援の枠を決めるのか」というテーマを浮かび上がらせ、読後は自分の仕事とも接続されるような読書体験になる。 加えて、付録の「判断のための10ステップ」が、読者が具体的な課題を持ち出してチェックリスト化するのに便利だ。たとえば取材先企業の現場を見た後に「我が社の開発部はなぜその目標を選んだのか?」と問い直すと、同じような問いを掲げる河北新報の記事と連動していることに気づく。こうした構造があるから、この本は単なる批評を越えて、読む人が自分の現場と対話する道具になる。