レビュー
概要
『バチバチ (1)』は、角界を追われた元大関・火竜の息子、鮫島鯉太郎を主人公にした本格大相撲漫画です。 スポーツ漫画としての熱さがありつつ、相撲という競技の“怖さ”が前面に出ます。 土俵の上では、勝ち負けが地位と生活に直結します。 だからこそ、主人公の闘争心がきれいごとになりません。
第1巻は、鮫島が相撲の世界へ踏み込む導入です。 父の言葉が、鮫島の中で燃料になっています。 ただしそれは、爽やかな「親孝行」ではありません。 怒りと誇りと執着が混ざった、危うい推進力です。
読みどころ
1) 相撲を「伝統」より「戦場」として描く迫力
相撲には格式も文化もあります。 でも本作がまず見せるのは、肉体と精神の削り合いです。 稽古の一つひとつが、相手を倒すために設計されています。 読んでいると、相撲が“優雅な儀式”ではないことが腹に落ちます。
2) 主人公が「努力家」だけでは説明できない
鮫島は頑張ります。 けれど「努力すれば報われる」タイプの主人公ではありません。 勝ちたいではなく、負けたくない。 認められたいではなく、なめられたくない。 この負の感情が、むしろリアルです。 第1巻は、その危うさを隠さずに走ります。
3) 父・火竜の影が、物語の空気を重くする
火竜は事件をきっかけに角界を去り、この世を去ったとされます。 その事実が、鮫島の立ち位置を決めます。 「二世だから有利」ではなく、「二世だから許されない」方向に働く。 第1巻は、そういう圧の中で鮫島がどう振る舞うかを見せます。
4) 相撲部屋という共同体の“面倒くささ”が面白い
相撲は個人競技に見えます。 でも部屋という共同体の中で育ちます。 上下関係。 生活のルール。 稽古の空気。 そういうものが、勝負以前に人を追い込みます。 この共同体の描写が、物語に厚みを出します。
5) 「勝つ」より「折れない」が先に来る
第1巻の鮫島は、勝ち方より折れないことに執着しています。 負けたら終わる。 その感覚で世界を見ている。 だから稽古の場面も、成長の爽やかさより生存競争に近いです。 この怖さが、作品を本格にしています。
本の具体的な内容
第1巻は、鮫島鯉太郎が父・火竜の影を背負って登場するところから始まります。 火竜は大関まで上り詰めながら、ある事件をきっかけに相撲界を追われています。 そのままこの世を去ったという事実が、鮫島の中で整理されないまま残っています。 だから鮫島は、土俵に立つ前から戦っています。
物語が動き出すのは、鮫島が相撲部屋の世界へ足を踏み入れる場面です。 稽古はきついです。 礼儀作法も厳しいです。 それでも鮫島は引きません。 引けないのです。 父の名を背負っているから、というより、自分の中の怒りを止められないからです。
第1巻では、相撲が「強い者が勝つ」では終わらないことも見えてきます。 体格。 経験。 部屋の力関係。 そしてメンタルのゆらぎ。 勝負の前に勝負がある。 鮫島はその現実にぶつかりながらも、真正面から突っ込んでいきます。 その無茶が、読者の心拍を上げます。
相撲には階級のような明確な差があります。 番付があり、格があり、稽古場でも扱いが変わります。 新人の立場は低いです。 だからこそ、実力で黙らせる以外に道がない。 第1巻は、鮫島がその地獄の入口に立つところを、痛いほど具体的に描きます。 土俵の上だけでなく、土俵の外も勝負です。
こんな人におすすめ
- 熱量の高いスポーツ漫画が読みたい人
- 勝負の世界の「綺麗ではない部分」も含めて読みたい人
- 主人公が危ういほど必死な作品に惹かれる人
- 相撲という競技のリアルを漫画で体感したい人
感想
第1巻を読んで思うのは、鮫島の“前のめりさ”が、憧れより怖さに近いことです。 でも、その怖さがあるからこそ目が離せません。 勝つための理屈ではなく、負けを受け入れない感情が先に立つ。 この順序が、相撲という競技の苛烈さとよく噛み合っています。
スポーツ漫画は、努力の物語として安心して読める作品も多いです。 『バチバチ』の第1巻は、安心をあまりくれません。 その代わり、勝負の場に立つ人間の生々しさを、真正面から見せてくれます。 「本気」の温度を浴びたいときに刺さる導入でした。
読み終えたあとに残るのは、爽快感より緊張感です。 でも、その緊張感が次の巻への引力になります。 鮫島がどこで折れるのか。 あるいは折れずに何を失うのか。 第1巻は、そういう怖い問いを投げて終わります。 熱いのに、甘くない。 そこがこの作品の魅力だと思います。
勝負の世界を“かっこよさ”だけで包まず、痛みごと描く。 第1巻から、その覚悟が伝わってきました。