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レビュー

概要

『難病ALSのママが綴るいのちのレシピ もしもキッチンに立てたなら』は、ALSとともに生きる著者が、家族へ残したい味と記憶を言葉にしたエッセイとレシピの本です。闘病記として読むこともできますが、中心にあるのは病名の説明ではなく、「これから自分ができなくなるかもしれないことを、どう別の形で手渡すか」という切実な問いです。

著者は料理人としての日々を持ち、家庭の食卓も仕事の現場も知っている人です。だから本書に出てくる料理は、映える特別食ではなく、家族の時間に染み込んだ味として置かれています。レシピそのものが生活の記録であり、同時に子どもたちへの手紙にもなっている。その二重性がこの本の大きな魅力です。

読みどころ

いちばんの読みどころは、「できなくなること」をただ悲しみとして書かず、「まだ残せるもの」の話へ変えている点です。キッチンに立ち続けたい。しかし、立てなくなるかもしれない。その現実は重いのですが、本書はそこで立ち止まりません。味、手順、言葉、台所の空気まで含めて、渡せるものを今のうちにひとつずつ残そうとします。

また、レシピ本として見たときにも、料理が記号になっていないのが良いところです。鉄板ナポリタンやグリーンカレー、お弁当のようなメニューが並ぶとき、そこには「何を食べたか」だけでなく、「誰とどんな時間を過ごしたか」が一緒に書かれています。料理の本でありながら、家族の記憶の本として読めるのはこの本ならではです。

さらに、本書は読者に大きな教訓を押しつけません。病気だから前向きでいなければならない、家族のために強くあらねばならない、といった無理な物語化が薄いです。そのため、読む側は「立派な話」として距離を取るのではなく、自分の生活や家族の姿へ自然に引き寄せて考えやすくなっています。

本書の重要ポイント

本書の重要ポイントは、料理を栄養や時短の手段としてではなく、「人に渡せる生活技術」として描いていることです。家庭の味には、材料や分量以上のものが含まれています。どんな日に作るか、どんな気分で食べるか、どんな言葉とセットで記憶に残るか。そうした見えにくいものを、著者はていねいにすくい上げています。

もうひとつ大きいのは、病気の本でありながら、読後感が絶望だけに寄らない点です。つらさは確かにありますが、それ以上に「今できることを今やる」という静かな強さが残ります。大げさな希望ではなく、今日の一品を残す、子どもに伝える、家族と食卓を囲むという具体にまで降りてきているので、読者の側も受け止めやすいです。

類書との比較

闘病エッセイには、診断から治療までの経過を軸にした本が多くあります。本書はそこを主役にしていません。もちろん病と向き合う記録ではありますが、中心にあるのは生活の継承です。そのため、医療知識を深く学ぶ本というより、病の中でも失われないものを見つめる本として読むのが合っています。

レシピ本と比べても質感が違います。通常の料理本が再現性や手軽さを前に出すのに対して、本書はレシピに感情の文脈が強く結びついています。だから、料理の実用書を期待して読むと少し違う一方で、食べることと生きることの結びつきを味わいたい人には強く残ります。

こんな人におすすめ

家族にとっての「食卓の意味」をあらためて考えたい人におすすめです。とくに、子どもへ何を残せるか、日々の料理は何を支えているのかを考えたい親世代には深く響きます。料理が得意かどうかは関係なく、台所が家庭の記憶をつくる場所だと感じている人には相性がいいです。

また、希望のある闘病記を探している人にも向いています。ただし、本書の希望は軽い励ましではありません。できることが減っていく現実を見た上で、それでも残せるものに目を向ける強さです。きれいごとだけではないからこそ、静かに効きます。

料理をよくする人はもちろん、これまで台所にあまり立ってこなかった人にも読んでほしい本です。献立の工夫そのものより、「家族の中で何が受け渡されていくのか」を考えるきっかけになるからです。食卓の記憶を持つすべての人に開かれた本だと思います。

感想

この本を読むと、料理はお腹を満たすためだけのものではなく、家族の時間やその家ならではの空気を渡す行為なのだと強く感じます。どんなに立派な料理でなくても、「あの味を思い出す」と言えるものが人を支える。その事実がまっすぐ伝わってきます。

読後に残るのは、病の重さそのものより、著者が味と言葉で家族へ橋をかけようとする姿でした。家族のために何かを残したい人、食べることの意味を見つめ直したい人にとって、忘れにくい一冊です。

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    佐々木 健太

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