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レビュー

概要

『ADHDの正体――その診断は正しいのか――』は、近年増えている「大人のADHD」診断に対して、臨床と研究の両方から疑問を投げかける本です。主張は刺激的で、「大人のADHDの9割は誤診」という問題提起から始まります。ただし煽りの本ではなく、診断の前提、検査、紛らわしい状態の見分け方、薬物以外の治療まで、地道に論点を積み上げていきます。

読みどころは、診断名で安心する心理を肯定もしつつ、そこに甘える危うさも指摘するバランスです。「生きづらさ」に名前がつくと楽になる。しかし、その名前が間違っていたらどうなるのか。薬が合わなかったらどうするのか。本書は、その現場の困りごとに寄り添いながら、診断の精度を上げるための視点を提示します。

具体的な内容:64歳の症例、コンサータ、そして「疑似ADHD」という仮説

本書では、症例として64歳の男性が登場します。子どもの頃の成績は良かったが友人が少なく、仕事では成果を上げつつも生きづらさを抱え、50代で精神科を受診して抗うつ薬(SSRI)を飲み続けていた。60歳で退職後に無気力が強まり、テレビ番組を見て「大人の発達障害」かもしれないと思い至る。診断を受けてADHDとされ、コンサータが処方される。しかし、本人は改善実感を持てない。

この症例を入口に、本書は問いを立てます。大人のADHD診断が増えた背景は何か。診断と投薬がうまくいかないのはなぜか。コンサータはどんな位置づけの薬なのか。さらに、著者は「大人のADHD」とされている実態の中に、別の原因による状態が混ざっている可能性を論じます。便宜的に「疑似ADHD」という枠を置き、愛着の問題など養育要因が絡むケース、養育以外の要因が絡むケースといった分類を提示する。ここが本書の核です。

重要なのは、診断基準(DSM-5)そのものを否定する方向へ走らないことです。現状の診断実務が、本人の経験や環境要因の精査を十分にやりきれていない可能性を指摘し、誤診と過剰投薬のリスクを示します。そのうえで、薬物以外の治療や支援、予防の観点にも触れます。

読みどころ:診断名より「経路」を見るという視点

“ADHDっぽい症状”があるとき、つい「原因=ADHD」と短絡しがちです。でも本書が繰り返し強調するのは、同じ症状でも経路が違うかもしれないという点です。元々の発達特性なのか、環境で悪化したのか、別の要因が似た症状を作っているのか。ここを誤ると、対策もずれます。

また、診断名がついたのに「薬が効かない」「生活が変わらない」という人が置き去りにされやすい現実にも触れます。診断はゴールではなく、入口にすぎない。入口でつまずく人を想定して書かれている点が、実務的です。

加えて、診断の「質」を上げるための具体も出てきます。検査の種類を知ること、紛らわしい状態を分けて考えること、薬物以外の治療法や関わり方も候補に入れること。セカンドオピニオンを求めて来院する人たちを診てきた著者だからこそ、診断名だけで結論を急がない姿勢が一貫しています。

類書との比較

発達障害に関する本は、大きく2つの系統があります。当事者の体験を軸にする本があります。医学的な解説に寄せる本もあります。本書は臨床の症例から入り、研究と診断実務へ戻ってくる往復運動が特徴です。そのぶん「結論だけ知りたい」読者は回り道だと感じるかもしれません。しかし、回り道が必要だという立場自体が、本書のメッセージでもあります。

また、発達障害の“啓発”に寄りすぎず、診断の限界と誤差を正面から扱う点で、読み心地は硬めです。けれど、その硬さは、安易な希望を売らない誠実さにもつながっています。

こんな人におすすめ

  • 大人になってからADHDと診断され、腑に落ちなさが残っている人
  • 診断や投薬を受けたが、生活が改善しない理由を考えたい人
  • 子どもの発達特性に向き合う立場で、見立ての精度を上げたい人

感想

この本を読んで感じたのは、「診断名がある/ない」より、症状がどう生まれたかを丁寧にたどるほうが大事だという当たり前の重みです。診断名は便利です。けれど便利さの裏には、分類の粗さがある。本書は、その粗さが誤診や過剰投薬につながり得ると示します。だから、便利さだけを求める態度が怖くなります。

一方で、当事者の救いを否定していない点も良かったです。名前がついたことで「自分のせいではない」と思える瞬間は確かにある。ただ、その瞬間をゴールにせず、次の一歩として「自分の経路」を見直す。そういう読み方を促してくれる本でした。

親や教師に向けた示唆も多く、子どもの学童期に押さえつけ型の対応をしても反発が強まる、といった指摘も出てきます。まず理解者になり、精神的な安全基地を作ることが大切だという話は、診断の話を超えて響きました。生きづらさに「安易な答えはない」と言い切ったうえで、地道な内省と関わりが必要だと促す。読み手を甘やかさない励ましがありました。

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    佐々木 健太

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