レビュー

概要

『Heaven? 1』は、墓地の中に建つフレンチレストラン「ロワン・ディシー(この世の果て)」を舞台に、破天荒なオーナー・黒須仮名子と、彼女に集められた従業員たちが織りなすレストランコメディです。主人公格として置かれるのは、真面目で融通が利かず、営業スマイルができないウェイター・伊賀観。彼はフレンチの現場にいるのに評価されず、浮いている。そんな伊賀をなぜか高く評価するのが仮名子で、彼を自分の店へスカウトして物語が動きます。

第1巻の面白さは、「店を繁盛させたい話」ではないところです。仮名子の目的は、お客のためというより、基本的には自分のため。だから現場はめちゃくちゃになりやすい。でも、めちゃくちゃの中で仕事のリアル(段取り、接客、厨房の空気)が妙に具体的で、笑いながら「分かる…」となります。

読みどころ

1) オーナーが“悪役”ではなく、“災害”として存在する

仮名子は美人で上品そうに見えるのに、言動が自分勝手で、現場を振り回す。怒鳴り散らすタイプではなく、涼しい顔で無茶を言うタイプの厄介さがある。第1巻は、この災害に周囲がどう耐えるかが笑いになります。

2) 伊賀観の真面目さが、正しいのに損をする

伊賀はきちんと仕事をしたい。でも、レストランの現場は理不尽だし、お客も理不尽だし、オーナーはもっと理不尽。真面目さが報われない環境で、どうやって自分を保つか。第1巻は、その痛さがちゃんとあります。

3) “素人集団”の寄せ集めが、現場の緊張を生む

集められた従業員には、フレンチ未経験の人も多い。だから失敗するし、ぶつかるし、足を引っ張る。でも、そのズレがあるから現場が生きて見えます。仕事漫画としての面白さも強いです。

本の具体的な内容

伊賀観は、フレンチレストランで働いていたものの、真面目すぎて器用に立ち回れず、周囲からも客からも評価されにくい人物として描かれます。そこへ現れるのが黒須仮名子です。仮名子は「オリジナリティが必要」「あなたはいいサービスマンになる」と伊賀を口説き、彼はその言葉に打たれて新しい店で働くことを決めます。

ところが、指定された場所へ行くと、店は墓地の中にある。立地だけで不安なのに、集められたメンバーも一筋縄ではいきません。元・美容師見習いのコミドラン(見習いウェイター)川合太一、牛丼屋で店長をしていた堤計太郎、元銀行員のソムリエ山縣重臣、そして不運の天才シェフ・小澤幸應。フレンチの現場として見ると、ちぐはぐで、危なっかしい。

それでも店は動き始めます。動き始めた瞬間に問題が噴き出す。仮名子は現場を見ないのではなく、見た上で自分の欲望を優先する。だから伊賀は、客の前での接客だけでなく、従業員同士の衝突や、オーナーの無茶の火消しまで背負うことになります。

第1巻で面白いのは、仮名子の無茶が「ただのギャグ」になりきらないことです。無茶は現場にストレスを生む。でもそのストレスがあるから、従業員たちのキャラが立つし、仕事の優先順位が露出する。レストランという場の“光と影”が、コメディの形式で出てきます。

さらに、店名の「ロワン・ディシー(この世の果て)」が示すとおり、この店は“普通の外食”の延長にはありません。墓地の中という立地は、雰囲気としては最悪にも見える。でも仮名子は、その最悪を「唯一」に変えるために、オリジナリティを叫びます。現場の人間からすると、オリジナリティは恐怖です。失敗したときに言い訳ができないから。でも、その恐怖を背負わされることで、従業員たちは嫌でもプロの顔になっていく。第1巻は、その無茶な成長装置として店が機能し始めるところまでを描きます。

類書との比較

飲食業界を描く作品には、料理の美味しさや職人技で読ませるタイプもあります。『Heaven?』はそこよりも、人間関係と現場の不条理に寄ります。しかも不条理を悲劇にせず、笑いに変える。第1巻の時点で「この店はまともに回らない」と分かるのに、だからこそ続きが読みたくなる構造がうまいです。

こんな人におすすめ

  • 仕事の現場の“あるある”を、笑える形で読みたい人
  • 飲食店・接客業の空気が好き(または経験がある)人
  • 破天荒なキャラクターに振り回される群像劇が好きな人
  • 佐々木倫子作品の、乾いた笑いと観察眼が好きな人

感想

第1巻を読んで強く残るのは、「現場は、正しさだけでは回らない」ということでした。伊賀は正しい。でも正しいだけでは、仮名子にも客にも勝てない。勝てないから、別のやり方を身につけるしかない。その成長の入口が、第1巻にきれいに置かれています。

墓地レストランという設定の突飛さがありながら、仕事の描写はやけに現実的で、笑いの後に疲れが残る感じがある。だから面白い。仕事漫画としてもコメディとしても強い導入巻でした。

読み終えたあとに残るのは、仮名子への怒りより、「こんな上司(オーナー)に当たったら地獄だな」という妙な現実感です。理不尽でも、店は開くし、客は来るし、皿は運ばれる。その中で、伊賀がどう折れずに働くのかが気になってしまう。第1巻は、笑いの形で“仕事の耐久力”を試してくる漫画でした。

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