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レビュー

概要

『忘却のサチコ (1)』は、文芸誌編集者・佐々木幸子(29歳)が、結婚式当日に新郎・俊吾に逃げられたことをきっかけに、「忘却の瞬間」を求めて美食を追いかけるグルメコメディです。仕事はできる。段取りも完璧。周囲からは“鉄の女”と呼ばれるほど。でも、その鉄がいちばん脆くなるのが、失恋の記憶がふっと顔を出す瞬間。第1巻は、その脆さを「食べる」で上書きしていく物語の出発点になっています。

この作品の面白さは、単なる食レポ漫画ではなく、食が“感情の処理装置”として描かれるところです。思い出してしまう、崩れる、食べる、忘れる、回復する。そしてまた仕事へ戻る。第1巻は、そのループをテンポよく回しながら、サチコのキャラクターを立ち上げます。

読みどころ

1) 「食べる」が、恋愛の代用品ではなく、回復の技術になっている

失恋したら酒、という定番ではなく、サチコは食べます。しかも“美味しいもの”である必要がある。味に集中できた瞬間だけ、記憶が薄まる。その描き方が具体的で、読者にも感覚として伝わります。

2) サチコの仕事ぶりが、気持ちいいくらい容赦ない

サチコは編集者として優秀で、作家にも厳しい。自分にも厳しい。だからこそ、失恋で崩れたときの落差が大きく、笑えるのに痛い。第1巻は、この落差で引っ張ります。

3) 食のチョイスが、“背伸び”ではなく“切実”に見える

朝からラーメンとカツ丼を食べる。サバの味噌煮に救われる。第1巻はこういう「今日をなんとかする食」が出てくるので、グルメが空想の娯楽で終わりません。

本の具体的な内容

物語は、サチコの結婚式当日から始まります。祝福の空気の中でお色直しに立ったはずの新郎が、戻ってこない。逃げられたという事実だけが残り、サチコは“完璧”だった人生から滑り落ちます。ここで作品は、泣きわめく悲劇に寄せず、サチコが淡々と崩れていく様子を描きます。感情が爆発する前に、仕事の顔で固めてしまうタイプの人間の壊れ方です。

そのサチコが出会うのが、「美味しいものを食べたときだけ、頭が空っぽになる」という感覚——忘却の瞬間です。たとえば、サバの味噌煮に出会い、口に入れた瞬間に、思考が止まる。俊吾のことも、恥ずかしさも、怒りも、いったん消える。ここがこの漫画の核で、食が“気晴らし”ではなく“心の避難所”として描かれます。

さらに第1巻では、サチコの食欲が「女の子の可愛さ」ではなく、「仕事人の執念」に見えてくるのが面白いです。朝からラーメンとカツ丼を食べる場面は象徴的で、普通なら胃もたれしそうなのに、サチコの中ではそれが“立て直しの儀式”になっている。食べることで自分を戻し、編集者としての戦闘モードへ入り直す。食がメンタルのリセットボタンになっているわけです。

サチコが追いかけるのは、流行のスイーツや映える店だけではありません。仕事の合間の定食、土地の料理、渋い家庭料理。食の守備範囲が広いから、「この人は本当に食で生き延びている」と納得できます。第1巻は、失恋の傷口を開いたまま、それでも生活を回す人のリアルを、食のエピソードで積み上げていきます。

仕事面でも、サチコは“プロ”として描かれます。企画を立て、作家に会い、締切を動かし、原稿をまとめる。そこで求められるのは、感情ではなく成果です。だからこそ、失恋の記憶がふいに出てきたときのダメージが大きい。第1巻は、サチコが「大丈夫なふりをするほど壊れる」瞬間を何度も挟み、食がその都度の避難所になる流れを作っています。

類書との比較

食漫画は、料理そのものの蘊蓄で読ませる作品も多いです。『忘却のサチコ』は、蘊蓄よりも「食べる人」を主役にします。何を食べるか以上に、なぜそれを食べるのか。第1巻の段階で、食が“物語のエンジン”になっているので、グルメに興味が薄い人でも、サチコの人生の立て直しとして読めます。

こんな人におすすめ

  • 失恋や挫折のあと、生活を立て直す話が読みたい人
  • グルメ漫画が好きだが、食の背景(気分、仕事、人間関係)も欲しい人
  • 仕事ができるのに、感情の扱いが下手な主人公に惹かれる人
  • 「食べることで回復する」感覚に覚えがある人

感想

第1巻を読んで良かったのは、「忘れるために食べる」という行為が、弱さとしてではなく、生存戦略として描かれていたことです。食べたら全部解決、ではない。でも、食べた瞬間だけでも呼吸が戻る。その一瞬を積み重ねて、仕事へ戻っていく。サチコのやり方は不器用だけれど、現実的で強いです。

泣くより先に食べる。思い出す前に食べる。笑えるのに、切実。第1巻は、その切実さで読者の背中を押してくる導入でした。

グルメ漫画として読んでも楽しいのに、読み終えると「今日の自分は、何を食べて回復する?」と考えたくなります。派手な成功や劇的な恋の逆転はなくても、温かい料理や濃い味の丼で、いったん息ができる。その現実的な回復の描き方が、この巻のいちばんの魅力でした。

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