レビュー
概要
『くーねるまるた 1』は、ポルトガルから来たマルタさんが、築70年のおんぼろアパートで貧乏暮らしをしながらも、「食べること」を中心に毎日を機嫌よく回していくグルメ日常漫画です。お金はない。けれどエンゲル係数は高い。節約はするけれど、味気ない暮らしにはしない。第1巻は、その“貧乏なのに豊か”という矛盾を、料理の工夫とご近所付き合いで気持ちよく見せてくれます。
ここで描かれる料理は、豪華な高級グルメではありません。紅茶チャーシュー、鶏油炒飯、パン耳タルト、蟹風味ディップ、そして「ほぼカニ?」と言いたくなるザリガニ料理。安い材料、余り物、ちょっと変な発想。そういう“生活の知恵”が、漫画のテンポで次々に出てくるのが楽しいです。
読みどころ
1) 「貧乏=みじめ」をひっくり返す、食の強さ
マルタさんは無理に強がりません。節約も、工夫も、全部まっすぐ。だから読者は「かわいそう」ではなく「いいな」と思ってしまう。第1巻は、食が気分を変え、生活を支えるところを徹底して描きます。
2) 料理が“レシピ”というより“発想”で出てくる
紅茶で肉を煮る、鶏油で炒飯を香らせる、パン耳をタルトにする。材料の豪華さではなく、発想の方向で勝つ。第1巻は「お金がないから料理が退屈になる」という思い込みを、軽く壊してくれます。
3) 人間関係が、押しつけがましくなく温かい
ご近所さんや同じアパートの住人たちとの距離感がちょうどいい。べったり助け合うでもなく、無関心でもない。食べ物のやり取りが、さりげない会話の入口になっていて、日常の空気が立ち上がります。
本の具体的な内容
第1巻のマルタさんは、とにかく「どうやって今日を美味しくするか」を考えて生きています。貧乏暮らしは、放っておくと“我慢大会”になりやすい。でもマルタさんは、我慢ではなく工夫で乗り切る。たとえば肉を安く手に入れたら、紅茶で煮て香りを移し、チャーシュー風にしてご飯を進める。脂の旨みが欲しいときは、鶏油を使って炒飯を作り、香ばしさで満足度を上げる。
パンの耳だって、捨てるのではなく、タルトの土台にして“お菓子”にする。蟹なんて買えないなら、蟹風味のディップで気分だけでも引き上げる。こういう工夫が、説教ではなく「楽しそう」に描かれているから、読者の中に罪悪感が残りません。節約料理の話なのに、読み終わると元気が出るタイプです。
第1巻では、マルタさんの生活の舞台も印象的に描かれます。築70年のアパートはボロい。寒いし、うるさいし、いろいろ足りない。でも、その“足りなさ”が、料理の工夫や近所との交流を生む余白になっている。高性能なキッチンや、完璧に整った暮らしでは出ない魅力が、ちゃんと出てきます。
たとえば、買い物の段階から物語になるのもこの巻の面白さです。安売りの食材を見つけて、そこから逆算して献立を組み立てる。余り物を“主役”にする発想で、冷蔵庫の中身が一気に宝箱になる。料理上手というより、生活の設計が上手い人としてマルタさんが立ち上がってくるので、読者は「真似したい」と思いやすいです。
そしてこの巻で象徴的なのが、ザリガニ料理の回です。「ほぼカニ?」という言葉が出てくるくらい、発想が大胆。安い食材を、見立てと手間で“ごちそう”へ寄せる。料理は科学でもあり、遊びでもある。マルタさんの姿勢は、まさにそれです。
類書との比較
グルメ漫画には、名店の逸品を追いかけて食べ歩くタイプもあります。一方『くーねるまるた』は、生活の中の料理が主役です。材料の格で勝つのではなく、気分の上げ方で勝つ。第1巻の時点で、その方向性がはっきりしているので、読む側も安心して日常のリズムに乗れます。
こんな人におすすめ
- 節約したいけど、食の楽しみは手放したくない人
- 丁寧な暮らしに憧れるが、完璧主義には疲れた人
- 料理のアイデアが欲しい人(レシピより発想が欲しい人)
- ほのぼのした日常漫画で、気持ちを立て直したい人
感想
第1巻を読んで残ったのは、マルタさんの「生活に勝つ」感じでした。お金がないと、やりたいことより“できないこと”に目がいきます。でもマルタさんは、できないことを数える代わりに、今日できる工夫を数える。だから読んでいて、気分が上向く。
料理の場面が魅力的なのはもちろんですが、それ以上に、食べることを中心に置くことで、暮らしの輪郭がはっきりするのが良いです。疲れているときほど効く、やさしい第1巻でした。
節約や自炊を続けるのがしんどいのは、「我慢の連続」になるからだと思います。マルタさんは我慢をしないわけではない。でも我慢を“遊び”に変えるのが上手い。紅茶チャーシューやパン耳タルトのような小さな発明があるだけで、今日の自分を褒められる。第1巻は、その褒め方を教えてくれる漫画でした。