レビュー

概要

『H2 1』は、中学野球で全国区のエースだった国見比呂(くにみ ひろ)が、「このまま投げればヒジが壊れる」と宣告され、野球を断念したところから始まる青春野球漫画です。比呂の親友でありライバルの橘英雄(たちばな ひでお)は名門・明和第一へ進み、甲子園を目指す。一方の比呂は、未練を断ち切るために、野球部のない千川高校へ入学する——この分岐が、第1巻の出発点です。

あだち充作品らしく、台詞は軽く、空気は柔らかい。でも、選択の重さは消えない。野球をやめたはずの少年が、野球から逃げ切れない。その“逃げ切れなさ”を、笑えるテンポで描きながら、気づくと胸に残してくるのが第1巻の強さです。

読みどころ

1) 「野球をやめた」主人公が、結局野球に戻ってしまう必然

比呂はサッカー部に入ろうとして、入門書まで買って勉強します。それでも、ふとした出来事で野球が近づいてくる。本人の意思と、本人の才能が、別の方向を向いている感じが面白いです。

2) 野球部がない学校の“野球愛好会”という舞台

最初から整った部ではなく、細々と続く愛好会から始まるのがいい。グラウンドも、人数も、実績も足りない。そこから甲子園を目指す無謀さが、逆に燃えます。

3) 恋と友情が、野球と同じ重さで走り出す

雨宮ひかり、古賀春華という二人のヒロインが、第1巻から早い段階で物語に絡みます。野球の選択と同じくらい、人間関係の選択も動き出す。この同時進行が『H2』らしさです。

本の具体的な内容

比呂は、中学時代に黄金バッテリーを組んだ野田敦と一緒に、医者から「投げ続ければヒジが壊れる」と言われます。比呂は野球を諦め、野田も腰の問題を抱え、二人は野球部のない千川高校へ。比呂はサッカー、野田は水泳——それぞれ別の道を歩くことで、未練を断つつもりでした。

ところが千川には、野球愛好会が存在します。そこで出会うのが、愛好会のマネージャー・古賀春華。彼女は野球が好きで、野球部のない学校に“野球を続けたい人”を集めようとしている。比呂がサッカー部の入部を考えているときに、春華があっさり「わたしは野球の方が好きだけど」と言ってくる場面が象徴的です。比呂の心の奥に残っていた野球が、軽い一言で反応してしまう。

第1巻の大きな転機は、サッカー部と野球愛好会が「野球で試合をする」ことになる展開です。サッカー部のエースストライカー・木根竜太郎は、なぜか投手としてもセンスがあり、運動神経のいいメンバーが揃うサッカー部は、野球愛好会を“弱い相手”として見下しがちになる。比呂はその態度に苛立ち、サッカー部を辞めて野球愛好会へ入る方向へ傾いていきます。ここが熱い。勝ち負け以前に、「バカにされるのが嫌」という感情が、比呂を野球へ引き戻す燃料になる。

さらに、比呂が野球をやめた原因だった医者の診断にも揺らぎが出てきます。無免許医だった、という事実が発覚し、比呂と野田は改めて検査を受け直す。もし本当に壊れる運命ではなかったのなら——。この希望が見えた瞬間、比呂の「野球をやめた」は、過去の決断ではなく、いまの選択として再び問い直されます。

一方で、比呂の親友・英雄は明和第一で甲子園を目指し、同級生の雨宮ひかりもそこにいる。野球の才能、友情、恋心、そして“勝ちたい相手”が、別々の場所で同時に膨らんでいく。第1巻は、千川の小さな愛好会の話でありながら、最終的に大舞台でぶつかる運命を、もう準備し始めています。

類書との比較

高校野球漫画の多くは、最初から野球部に入り、練習して、試合をして、勝っていく構造を取ります。『H2』の第1巻は、その前段の「野球をやめたはず」という屈折を抱えた状態から始まる。だから、野球に戻ること自体がドラマになります。試合の勝敗より先に、“戻るかどうか”が勝負になる。その設計が、他の野球漫画と違う読み味を作っていると思います。

こんな人におすすめ

  • 野球漫画が好きで、王道だけでなく少し屈折した導入が読みたい人
  • 友情と恋と競争が同時に走る青春ものが好きな人
  • 「やめたはずの夢」にもう一度向き合う物語に弱い人
  • あだち充作品の、軽さの中に刺さる台詞が好きな人

感想

第1巻を読み終えて残るのは、「比呂は結局、野球が好きなんだ」という当たり前の事実でした。でもその当たり前に戻るまでに、医者の宣告、未練、意地、仲間、そして春華の存在が丁寧に積まれている。だから戻っていくのが自然で、しかも熱い。

野球部のない学校の愛好会から甲子園を目指す、という無謀さも、あだち充の軽いテンポで読むと不思議と現実味が出てきます。夢は大きいほど滑稽に見える。でも滑稽さを笑いながら、それでもやる人間が格好いい。第1巻は、その格好よさの入口でした。

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