レビュー
概要
『この子はこの子のままでいいと思える本』は、子育ての不安が「正しさ競争」になって苦しくなるときに、親子の関係をいったん落ち着かせてくれる一冊です。児童精神科医・佐々木正美先生が、母親たちの悩み相談に答える形で、いちばん伝えたかったことを届ける構成になっています。
本書の核は、子どもを変えるテクニックではありません。親が自分を責め続ける循環を止めます。その上で、親子の関係を立て直すための考え方を示します。代表的な言葉として「いい子だから、かわいがるのではありません。かわいがられるから、いい子になるのです」という一節が出てきます。
読みどころ
1) 相談形式で「今の悩み」に直結する
理想論を読むと、できない自分を責めたくなりやすいです。本書はQ&Aのように悩みから始まります。だから、読みながら「この場面は自分の家にもある」と照らしやすいです。
2) しつけの焦りを“関係性”へ戻してくれる
しつけの悩みは、ルールの問題に見えます。けれど、背景には親子の安心感があります。本書は「どう叱るか」の前に、「どう関わるか」を考えさせます。
3) 父親の役割まで含める
育児書は母親向けに寄ることが多いです。本書は父親の役割も章として扱います。家庭の中で責任が偏る現実に対して、視点を広げてくれます。
本の具体的な内容
説明文では、「人間関係が失われ、孤独な親が増えた時代に、幸せな親子を増やしたい」という思いが語られています。2017年に逝去した佐々木正美先生が、悩み相談への回答として伝える形になっています。
章立ては次の通りです。
1章:「お母さん」が重い
2章:しつけって難しい
3章:親子バトルから抜け出したい
4章:子どもを伸ばす親になるには?
5章:思春期の前に
6章:父親の役割ってなんですか?
タイトル通り、子どもを「評価」で見る視点を緩めます。親自身が、子どもの今を受け止め直す足場を作る内容です。
章名を追うだけでも、本書が扱う範囲の広さが見えてきます。「『お母さん』が重い」は、育児の負担が一人へ寄ったときに起きる息苦しさを想像させます。「しつけって難しい」は、正解がない領域で迷う苦しさと重なります。さらに「親子バトルから抜け出したい」は、関係が“勝ち負け”になってしまう痛さに触れます。
その上で「子どもを伸ばす親になるには?」が置かれます。ここで大切なのは、子どもを「矯正」することではなく、安心できる関係を土台にして伸びる方向へ寄せることです。説明文の「かわいがられるから、いい子になる」という言葉は、その姿勢を端的に表しています。
後半は「思春期の前に」「父親の役割ってなんですか?」が続きます。小さい頃の関係は、思春期に効きます。家庭の関わり方も、母親一人の問題では終わりません。そうした見取り図が、章立てだけでもはっきりしています。
類書との比較
育児本には、手順の多いものもあります。すぐ実行できる一方で、できない日は落ち込みやすいです。本書は手順よりも、考え方の軸を整えます。だから、家庭の事情が違っても読み替えやすいです。
ただし、具体的な声かけ例を大量に求める人には少し抽象に感じるかもしれません。けれど「親の心が先にすり減る」タイプの悩みには、こうした本の方が効きます。
こんな人におすすめ
- 子育てに自信が持てず、自分を責め続けてしまう人
- しつけの場面で親子バトルが増え、疲れている家庭
- 思春期の前に、関係の土台を作り直したい人
- 家の中で育児が一人に偏りやすく、視点が欲しい人
感想
子育ては、情報が多いほど不安が増えます。周りの家庭と比べるほど、目の前の子が見えにくくなります。本書は、その視線を「この子」へ戻してくれます。
特に印象に残るのは、「かわいがられるから、いい子になる」という言葉です。ここには、評価で子どもを操作しない姿勢があります。親が安心の場を作る。子どもはそこで伸びる。焦るほど忘れがちな順番を、やさしく思い出させてくれる本でした。
読んでいて救われるのは、親の弱さを責めない語り口です。「ちゃんとしなきゃ」を積み上げるほど、親は余裕を失います。余裕がないと、子どもの行動はさらに気になります。そうして親子バトルが増えます。本書は、その悪循環に気づかせます。
実践の入口としては、まず「今日できたこと」を1つ拾うのがおすすめです。大きな改善を狙わない方が続きます。子どもは、評価よりも関心を浴びたときに安定しやすいです。そうした当たり前を、言葉で確認できる一冊でした。