レビュー
概要
『ベイビーステップ(1)』は、天才がいきなり勝ち上がるタイプのスポーツ漫画ではなく、「几帳面でマジメな人が、スポーツで人生を作り直す」物語です。主人公は“エーちゃん”。小学生のころから成績はずっとオールAという優等生で、真面目さが取り柄でもあり、同時に自分を縛る枠にもなっている。
高校進学を機に、軽い気持ちでテニススクールに通い始めたエーちゃんは、美少女“ナツ”と出会い、テニスの魅力に取りつかれていきます。ここでの「取りつかれる」は、根性論の熱さというより、「理屈で積み上げてきた人が、理屈では説明できない快感に出会う」感じ。1巻は、その化学変化の始まりを、すごく丁寧に描きます。
読みどころ
1) 真面目さが“武器”にも“弱点”にもなるリアル
優等生って、真面目で努力できる一方、失敗が怖くて踏み出せないことも多いです。エーちゃんはまさにそのタイプで、最初は「続くか分からない」テンションでテニスを始める。でも、始めてみたら、想像以上にハマってしまう。真面目な人ほど刺さる入り方です。
2) ナツの存在が、スポーツの“楽しさ”を言語化してくれる
ナツはちょっぴりいい加減(っぽい)けれど、テニスに懸ける情熱は真剣。だから、エーちゃんがスポーツを「成績」ではなく「夢中」へ切り替えるきっかけになります。恋愛のためにスポーツを始める話ではなく、出会いが世界の色を変える話として効いてきます。
3) “数式じゃ表せない”という言葉の説得力
説明文にある「快感、そして悶絶のらせん」「数式じゃ表せない人生の化学変化」という表現が、そのまま作品の手触りです。努力はコントロールできる。でも勝負はコントロールできない。その不確かさにハマる瞬間が描かれていて、読者も一緒に沼へ落ちます。
本の具体的な内容
エーちゃんは、成績オールAで几帳面な高校生。進学を機にテニススクールへ通い始め、そこでナツと出会います。ナツは“ちょっぴりいい加減”な雰囲気を持ちながらも、テニスへの情熱だけはぶれない。その姿が、エーちゃんの人生のスイッチを入れます。
1巻では、テニスを通して「うまくいく/いかない」が、勉強とは違う形で返ってくる面白さが立ち上がります。努力しても、すぐ成果が出るとは限らない。逆に、ちょっとしたコツで景色が変わる瞬間もある。この“予測不能”が、真面目な主人公を夢中にさせる。
また、テニスの魅力が「競技としての面白さ」だけでなく、「自分が変わっていく感覚」として描かれるのもポイントです。エーちゃんは自分の枠を1つずつ外していく。その過程が、スポーツ漫画としても、成長物語としても気持ちいいです。
類書との比較
テニス漫画は、才能の爆発や必殺技で盛り上げる作品も多いですが、『ベイビーステップ』は、積み上げの気持ちよさで勝負します。主人公が“真面目で几帳面”だからこそ、努力が嘘っぽくならないし、伸びる瞬間に説得力が出る。
また、スポーツを「青春の装飾」にしないのも良いところです。恋や友情はありつつも、中心はあくまで「自分が上手くなりたい」「もっと知りたい」という純度の高い欲求。その欲求があるから、読者も熱をもらえます。
こんな人におすすめ
- 努力型主人公のスポーツ漫画が好きな人
- 真面目で几帳面で、人生がルーティン化している自覚がある人
- スポーツの“沼にハマる瞬間”を味わいたい人
- 勝ち負けだけでなく、成長のプロセスを丁寧に追いたい人
感想
この1巻は、スポーツを始める理由が「軽い気持ち」なのに、いつの間にか人生の中心になっていく怖さと楽しさがリアルでした。真面目な人ほど、何かに夢中になるのが怖い。でも、一度夢中になると、世界の見え方が変わる。エーちゃんの変化は、そのまま読者の背中にも刺さります。
テニスが“数式じゃ表せない”という表現は、努力を否定しているわけではなく、努力だけでは回収できない不確かさがある、ということ。その不確かさに挑むことで、人は生き生きする。1巻の時点で、単なるスポーツ漫画では終わらず、人生の漫画になっていく予感があります。そこがすごいと思いました。
タイトルの「ベイビーステップ」って、実はこの主人公に一番似合う言葉だと思います。いきなり大きな目標で自分を壊すのではなく、できることを増やして、自分の世界を広げていく。真面目な人は、完璧を目指すほど動けなくなるけれど、この物語は「小さく始めて、いつの間にか変わってる」を肯定してくれます。
読み終えた後に残るのは、勝ち負けより「やってみたら人生が動くかもしれない」という感覚でした。スポーツを始めるのに、理由は立派じゃなくていい。軽い気持ちでも、続けるうちに本気で向き合う時間が増える。1巻はその瞬間を、ちゃんと信じられる形で描いてくれます。