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レビュー

概要

『本なら売るほど 1』は、古本屋「十月堂」を舞台に、本と人がもう一度出会い直していく様子を描くコミックです。店主は、ひっつめ髪で少し気だるげな青年。そこへ常連の本好き、背伸びしたい女子高生、不要な本を持ち込む男、夫の蔵書を売りに来た未亡人など、いろいろな事情を抱えた客がやって来ます。

KADOKAWAの紹介文にある通り、本書の核は「ふと手にした一冊が、思わぬ縁をつないでいく」ことです。だから、古本屋漫画でありながら、本のウンチクだけで進む作品ではありません。本にまつわる記憶、誰かと共有した時間、手放せなかった理由、逆に手放さざるを得なかった事情まで含めて、人の暮らしが見えてきます。

本好き向けの作品は、ともすると「分かる人だけ分かればいい」方向へ閉じがちです。でもこの漫画は、読書量の多寡より先に、「物に記憶が宿る瞬間」を描くので間口が広い。そこがまず強いです。

読みどころ

1. 古本屋が“選別の場所”ではなく“再会の場所”になっている

十月堂に来る人たちは、本を買いに来るだけではありません。思い出を持ち込んだり、背伸びのきっかけを探したり、自分でも整理しきれない気持ちを本に託したりしています。

古本屋というと、知識のある人が価値を見抜く場所というイメージもありますが、本作ではもっと感情の行き来が前に出ます。本は高価な収集物である前に、誰かの人生の途中にあったものなのだと、エピソードごとに思い出させてくれます。

2. 客の視点が変わるたびに、本の意味も変わる

本書に出てくるのは、いわゆる本好きばかりではありません。本を処分したい人もいれば、店主のすすめで初めて知らない作家に触れる人もいます。誰の視点で本に近づくかによって、同じ棚の景色がまるで違って見えるんですよね。

この構造があるので、読者は「この本が好き」「古本屋が好き」だけで終わらず、本と人の関係そのものを見つめ直すことになります。読書の趣味を肯定してくれる漫画でありながら、読書をしない人の距離感もちゃんと描けているのがうまいです。

3. 愛書家へのサービス精神と、押しつけなさのバランスがいい

作中には、実在の本を連想させる場面や、本好きなら反応したくなる空気がたくさんあります。でも、それが内輪ネタで終わらない。児島青は、本への愛情を十分に込めながらも、「読んでいないと置いていかれる」感じは作っていません。

漫画としての読みやすさがきちんとあるから、古本や書店文化に詳しくない人でも普通に入れます。そのうえで、読後には本屋へ行きたくなるし、自分の本棚も見返したくなる。この余韻がかなり良いです。

本の具体的な内容

第1巻の中心は、十月堂を訪れる人たちの短編的な積み重ねです。KADOKAWAの紹介に出ている通り、常連、本に背伸びしたい女子高生、不要な本を捨てに来る男、亡き夫の蔵書を売りに来た未亡人など、客の顔ぶれが最初から幅広い。

この設定だけでも、本の価値が「定価」や「希少性」だけでは決まらないことが分かります。ある人にとっては処分したい紙束でも、別の人には人生の向きを少し変える一冊になる。十月堂は、その受け渡しの場として機能しています。

店主も、ありがちな“知識で圧倒する名物古書店主”ではありません。気だるげで、少し距離があるように見えながら、客の気持ちの動きにはかなり敏感です。そのさじ加減が絶妙で、説教しないのに、本との付き合い方をそっと更新してくれます。

また、1巻はヒューマンドラマとしてかなり整っています。各話の感情の置き方がやさしいので、泣かせに来る感じが強すぎない。その代わり、読み終えたあとで「あの場面よかったな」とじわじわ戻ってくるタイプの漫画です。連載初期から反響が大きかったというのも納得でした。

類書との比較

書店や古本屋を舞台にした作品には、本の知識や書店員の仕事を前に出すものも多いです。『本なら売るほど』は、その系譜にいながら、もっと広く「本に助けられた経験がある人」の感情に寄っています。

また、読書好きのための漫画でありつつ、本好きだけを特権化しないのも特徴です。本に詳しい人の正しさより、本と関わるそれぞれの事情に焦点がある。そこが、この作品をただの趣味漫画ではなく、かなり普遍的なヒューマンドラマにしています。

こんな人におすすめ

  • 本屋や古本屋に入るだけで気分が上がる人
  • 読書そのものより、本にまつわる記憶が好きな人
  • やさしい後味の漫画を探している人
  • 読書好きの友人に安心してすすめられる漫画がほしい人

逆に、派手な事件や強い起伏を求める人には少し静かに感じるかもしれません。この漫画の面白さは、爆発力より、手元に残る余韻のほうにあります。

感想

この漫画を読んでまず思ったのは、「本が好き」という気持ちを、ここまで押しつけがましくなく肯定できるのがすごい、ということでした。本が人生を変える、みたいな大きな言い方をしなくても、誰かの一日を少しだけずらす力があることが自然に伝わってきます。

十月堂に集まる客たちを見ていると、本を読む理由は一つではないし、本を手放す理由にもちゃんと物語があると分かる。その視点があるから、読書好きへのサービス漫画以上の厚みが出ています。

本好きにはもちろん刺さりますが、それ以上に「最近、本とちゃんと出会えていない」と感じている人に効く一冊でした。読後に古本屋へ寄り道したくなるタイプの、かなり信頼できる漫画です。

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