レビュー
概要
『王様ランキング 1』は、「耳が聞こえない」「非力で剣も振れない」王子・ボッジが主人公のファンタジー漫画です。周りからは“王様になれない”と言われ、笑われ、期待されない。それでもボッジは王子として前に進もうとします。そんな彼の唯一の友達が、影のような存在のカゲ。ふたりの出会いから、物語が大きく動き始めます。
この作品、絵柄はシンプルで可愛いのに、扱っているテーマはかなり骨太なんですよね。差別、孤独、家族の中の力関係、正しさが通らない痛み。そういう要素を真正面から描きつつ、読者に「じゃあボッジはどう生きる?」と問いかけてきます。1巻は“始まり”なのに、すでに胸がぎゅっとなる場面も多いです。
また、1巻には描き下ろしエピソード「彼が生まれた日」も収録されています。本編の見え方が少し変わるので、読み終わったあとにぜひ手を止めずに読んでほしいです。
読みどころ
1) 「弱さ」を笑われる側の視点を、きれいごとにしない
ボッジは弱いです。だからこそ周囲は遠慮なく傷つけてくるし、本人もそれを分かっている。ここがつらい。でも、ただかわいそうな物語では終わらず、「それでも人を信じる」「王子として振る舞う」というボッジの選択が、読む側の心を立て直してくれます。
2) ボッジとカゲの関係が、救いとして機能している
友達がいるだけで、世界は変わる。そういう瞬間って本当にあるんですよね。カゲはボッジの言葉にならない気持ちを受け止めて、時に厳しく、時に守りながら隣にいる。ふたりの関係は依存ではなく、支え合いに近い。読んでいて「このふたりなら大丈夫かも」と思える瞬間がちゃんとあります。
3) “王様”という言葉が、権力だけじゃなく価値観の話になっている
タイトルに「ランキング」とある通り、この世界では王様にも序列があります。でも、強い=偉い、という価値観がそのまま正義になるとは限りません。ボッジの姿を通して、「誰が評価を決めるの?」と考えさせられます。「強さって何?」という問いも立ち上がってきます。読後に自分の中の“強さ”の定義が揺れるように感じました。
4) 絵柄と内容のギャップが、感情のパンチを増幅させる
柔らかい線で、絵本みたいな読みやすさがある。その一方で、起きる出来事は厳しい。だからこそ、残酷さが過剰にグロくならず、でもちゃんと痛い。読む側が受け止められるギリギリのところで感情を動かしてくれるのが、この作品の強みだと思います。
5) 伏線の置き方がうまく、1巻から先が気になりすぎる
「この人は本当は何を考えているんだろう」「この関係はどうなる?」という引っかかりが、1巻の段階でいくつも仕込まれています。読み終わった瞬間、続きの巻を手に取りたくなるタイプです。
6) 言葉がなくても伝わる“表情と間”の強さ
ボッジは耳が聞こえず、周囲とのコミュニケーションも簡単ではありません。だからこそ、視線や身振り、表情の変化が物語の重要な言語になります。セリフで説明しない分、読者が「今どんな気持ちなんだろう」と想像して埋める余白があって、それが没入感につながっていました。
こんな人におすすめ
- “主人公最強”より、弱さから始まる成長物語が好きな人
- かわいい絵柄でも、テーマは重い作品が刺さる人
- 他人の評価や比較に疲れていて、「自分の強さ」を見直したい人
- ファンタジーで泣ける漫画を探している人
感想
この1巻を読んで、最初に思ったのは「こんなに優しいのに、こんなに苦しい物語ある?」でした。ボッジは誰かを見下さないし、恨みも抱えすぎない。だから余計に、周りの冷たさが刺さる。でも、だからこそ“優しさを選ぶ強さ”が際立つんですよね。
個人的に胸に残ったのは、ボッジがただ耐えるだけじゃなく、「王子として」振る舞おうとするところです。できないことが多いのに、できる範囲で誠実に向き合う。そこにカゲが伴走してくれるから、読者も一緒に踏ん張れる感じがある。友情の描き方が、甘すぎず重すぎずでちょうどいいです。
あと、評価されない側にいるときって、「頑張っても意味ないかも」って気持ちが出てきますよね。ボッジの境遇は極端だけど、その感覚は現代の私たちにも刺さる。だから読後に残るのは、ファンタジーの高揚というより、「自分も今日をやり直せるかも」という小さな再起動でした。
もうひとつ良かったのが、カゲの存在が“正解を押しつけない”ところです。励ますけど、甘やかしすぎない。守るけど、奪わない。人を支えるって本当は難しくて、距離を間違えるとすぐに依存になってしまう。この作品は、支え合いの難しさを描きつつ、それでも隣にいることの強さを見せてくれます。
シンプルな絵柄で読みやすいので、普段漫画をあまり読まない人にも入りやすいと思います。だけど読み終わる頃には、ちゃんと自分の感情が動いている。1巻から“名作の匂い”がする一冊でした。