レビュー
概要
『読解のための英文法が面白いほどわかる本 必修編』は、英文法を「書けるようになるため」ではなく「読めるようになるため」に再配置した参考書です。冒頭で提示される、-ing形の品詞と役割をすべて識別できるか?という問いが象徴的で、文法用語の暗記より、構造を見抜く力(どこが骨格で、どこが修飾か)に焦点を当てます。
扱うテーマは33に厳選され、例題183→確認問題137→発展問題38という階段で、読解に必要な文法判断を反復させます。発展問題は難関大・難関私大の入試で実際に出題された英文が中心で、読みやすい例文から試験レベルまでを一冊でつなげられる設計です。さらに、文構造と修飾関係が視覚的に分かる「英文図解」が多く、読む際の視線の置き方を矯正してくれます。
音声ダウンロードが付いているのも、読解書として意外に効きます。黙読だけだと構造が曖昧なまま“雰囲気読み”になりがちですが、音声で区切り(チャンク)を意識すると、どこで情報が追加され、どこで主張が転ぶのかが掴みやすい。
読みどころ
1) 33テーマに絞ることで、読解の「迷いどころ」が可視化される
英文法の全範囲を網羅する本は多いですが、それだと重要度が均されます。本書は読解で詰まりやすい箇所にテーマを絞り、判断を反復させます。「どの知識を使えばいいか分からない」を減らし、「この形が出たら、この見方をする」という処理の自動化に寄っているのが特徴です。
2) 例題→確認→発展の階段が、理解を“使える”に変える
理解しても解けないのは普通に起きます。本書は量と段差でそれを潰しに来ます。例題で型を作り、確認問題で手を動かし、発展問題で現場(入試英文)に当てる。この流れがあると、知識が「思い出せる」だけでなく「時間内に適用できる」へ変わります。
3) 英文図解が、修飾の迷子を救う
読解で苦しいのは、主語・動詞を見失うことより、修飾がどこにかかっているかを取り違えることです。本書の図解は、“どこが核で、どこが付属か”を目で捉えさせるので、長文の負荷が下がります。特に関係詞や分詞、挿入句が多い文で効きます。
4) 入試問題を材料にしつつ、読解の一般スキルとして転用できる
発展問題が実際の入試英文である点は、対策として安心材料ですが、それ以上に「学術的な英文の読み方」に接続できるのが良いところです。大学以降に論文や専門書を読む人にとっても、構造の取り方はそのまま役に立ちます。
類書との比較
「文法書」と「英文解釈書」は似ているようで目的が違います。前者はルールを体系化し、後者は構造の見抜き方を鍛えます。本書は後者寄りで、文法知識を“読解の道具”として運用する側に立っています。
また、解釈の名著は難解な例文が多く、初学者が入りづらいことがあります。本書は例題が基礎から始まり、段階的に入試英文へ上がるため、途中離脱が起きにくい。逆に、すでに上級者で「未知の構文の収集」が目的なら、より難度の高い英文中心の本が合うかもしれません。
こんな人におすすめ
- 文法を覚えたのに、長文になると読めなくなる人
- 修飾関係が崩れて“雰囲気で読む”癖を直したい人
- 入試対策と同時に、読解の基礎体力を上げたい人
- 英文を読むときの視線の置き方(構造の取り方)を身につけたい人
感想
この本を読んで、英文が読めない原因は「文法知識の不足」より「構造判断の反復不足」であることが多いと改めて感じました。分かっているはずの項目でも、試験の時間制約や長文の負荷が乗ると判断が揺れます。本書は、その揺れを“量と段差”で減らしてくれる設計です。
特に良いのは、英文図解が「解説」ではなく「見方」を教える点です。解説を読んで理解した気になるのではなく、自分の目がどこを追うべきかが分かる。読み手の注意の向け方(アテンション)を矯正してくれる教材は、意外に少ないと思います。
使い方としては、最初から全部を網羅しようとせず、まずは誤読が多いテーマから着手するのが現実的です。確認問題は、間違いの原因が“知識”なのか“処理の順序”なのかを切り分ける材料になります。音声は、区切りを身体化するための補助輪として使うと効果が出やすい。
参考文献(研究)
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin. doi:10.1037/0033-2909.132.3.354
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-Enhanced Learning. Psychological Science. doi:10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x