レビュー
概要
『いつでも初恋ヒーロー』は、人付き合いが苦手な高校生と、人気モデルの転校生が出会うことで動き出すBLコミックだ。主人公の久保井藤弥は、前髪と眼鏡で顔を隠しながら学校生活をやり過ごしている。そこへ話題の転校生カイが現れる。偶然の出来事をきっかけに、藤弥はカイと関わりはじめる。
この作品の良さは、派手なイベントよりも、距離の詰まり方にあると思う。恋愛の入口はいつも大げさではない。視線、言葉の選び方、助けるか見て見ぬふりをするか。そういう小さな選択が積み重なって、関係が形になる。その過程が丁寧だ。
読みどころ
1) 「隠す」主人公が、少しずつ表に出る
藤弥は顔を隠している。これは単なるキャラ付けではなく、他者との接触を避けるための工夫でもある。だからこそ、カイとの関わりは藤弥にとってリスクになる。近づくほど、見られるからだ。この緊張が、恋愛の甘さと同時に、読者の手触りとして残る。
2) 2人の関係は、特別扱いと対等さの間で揺れる
人気モデルという肩書は、守ってくれる力にも、距離を生む壁にもなる。周囲の視線があるほど、気持ちは単純にならない。だから物語は、「助ける/助けられる」で固定されず、対等さへ向かう。ここが読後感を軽くする。
3) 恋愛の説得力は、自己開示の量で決まる
恋愛は、相手に自分をどれだけ渡すかで進む。言い換えると、自己開示だ。心理学のメタ分析でも、自己開示と好意の関係は整理されている。小さな打ち明けが積み重なるほど、関係は安定しやすい。doi:10.1037/0033-2909.116.3.457
本作は、その積み上げを急がない。だから、関係が深まる場面に無理が出にくい。
類書との比較
学園BLには、分かりやすいすれ違いと劇的な和解で見せる作品も多い。本作はその方向より、日常の空気を使って距離を詰めていくタイプだ。派手さより、感情の動きの自然さを取りたい人に向く。
また「初恋」という言葉がタイトルに入っている分、読者は純度を期待する。ただし純度は、無菌さではない。怖さや恥ずかしさがあるから、初恋は初恋になる。そこを逃げずに描いているのが良い。
こんな人におすすめ
- 学園BLで、じわじわ距離が縮む話が好きな人
- 自己肯定感が揺れる主人公を見守りたい人
- きれいなだけではない初恋を読みたい人
逆に、展開の速さや強い刺激を求めると物足りない可能性がある。
感想
恋愛は、好意の強さだけでは続かない。安心できる接点が必要だと思う。人はつながりを求める。これは動機づけの古典的な議論でも整理されている。doi:10.1037/0033-2909.117.3.497
本作は、その「安心できる接点」を、特別な言葉よりも振る舞いで作っていく。だから読後に残るのは、胸の高鳴りだけではない。誰かに対して少しだけ勇気を出す感覚だ。初恋のヒーローは、誰かを救う人かもしれないし、救われる側が踏み出す瞬間かもしれない。その両方を見せてくれる作品だった。
参考文献(研究)
- Collins, N. L., & Miller, L. C. (1994). Self-disclosure and liking: A meta-analytic review. Psychological Bulletin. doi:10.1037/0033-2909.116.3.457
- Baumeister, R. F., & Leary, M. R. (1995). The need to belong: Desire for interpersonal attachments as a fundamental human motivation. Psychological Bulletin. doi:10.1037/0033-2909.117.3.497