『新版 エニアグラム【基礎編】 自分を知る9つのタイプ』レビュー
著者: ドン・リチャード・リソ 、ラス・ハドソン
出版社: KADOKAWA
¥1,870 Kindle価格
著者: ドン・リチャード・リソ 、ラス・ハドソン
出版社: KADOKAWA
¥1,870 Kindle価格
『新版 エニアグラム【基礎編】 自分を知る9つのタイプ』は、エニアグラム(9タイプ)という枠組みを使って、自分の思考や感情、反応パターンを言語化するための入門書です。読書体験としては、性格を「当てる」本というより、「自分の説明変数を増やす」本に近いです。自分がどんな場面で反応が硬くなるのか、どんなストレスで判断が極端になるのかを、タイプ別の文章で照らし出していきます。
一方で、エニアグラムは心理学の標準モデル(たとえばビッグファイブ)と同じ水準で検証されている、と断言できる領域ではありません。だからこそ、読み方が重要です。タイプは「診断」ではなく「仮説」です。自分の行動データで検証し、合わないなら捨てる。合うなら、改善の方針を立てる。本書は、その仮説づくりに使うと価値が出ます。
タイプ論が危ないのは、説明がきれいで、つい現実を単純化してしまう点です。誰でも当てはまりそうな記述に「自分のことだ」と感じてしまう現象は、フォア効果(個人的妥当性の誤謬)として古典的に示されています。doi:10.1037/h0059240
本書を読むときは、「当てはまる」ではなく「いつ当てはまるか」を見るのが合理的です。たとえば、普段は当てはまらないのに、疲れているときだけ出る反応はありませんか。そういう条件付きの癖を拾えると、タイプ論は急に実用になります。
自己理解は、深めるほど良いわけではありません。解釈が増えすぎると、都合の良い説明だけを拾う確認バイアスに寄りやすい。確認バイアスは、日常の多くの場面で起きると整理されています。doi:10.1037/1089-2680.2.2.175
対策としては、タイプを決め打ちせず、候補を2〜3に保ったまま「予測」を作るのが良いです。たとえば「このタイプ傾向が強いなら、会議の前にこういう準備をすると落ち着くはず」という形で、次の行動に落とします。予測が当たるなら残し、外れるなら修正する。こうすると、自己理解が占いになりにくいです。
性格特性は大きく変わらない、という直観はありますが、実際には平均水準での変化が報告されています。縦断研究のメタ分析では、成人期を通じた平均水準の変化パターンが整理されています。doi:10.1037/0033-2909.132.1.1
この観点から見ると、タイプは「一生の運命」よりも「現時点の傾向」の方が近いです。本書を自己否定や自己正当化の道具にしないためにも、「変えられる部分」と「変えにくい部分」を分けて読むのが良いと思います。
性格理解の枠組みとしては、ビッグファイブのように学術研究で広く使われる特性モデルがあります。ビッグファイブの構造や普遍性については、整理された議論があります。doi:10.1037/0003-066x.48.1.26 / doi:10.1037/0003-066x.52.5.509
それに対してエニアグラムは、理論や実践コミュニティの厚みはありますが、研究ベースの標準化という点では慎重に扱うべき領域です。だから、本書の使いどころは「科学的診断」ではなく、「内省を促す質問集」としての価値だと思います。
西村の視点では、本書は「性格分類の正しさ」を競う本ではなく、「自分の観測を増やす」本として読むと当たりやすいです。タイプ論のリスクは、気持ちよく説明できてしまうことです。説明が気持ちよすぎると、現実より説明を守ってしまう。そこを避けるには、タイプを結論にせず、行動の改善につなげるのが良いです。
具体的には、(1)当てはまった箇所に線を引く、(2)その反応が出る場面を3つ書く、(3)出ない場面も1つ書く、(4)次に同じ場面が来たら何を試すかを決める。この4ステップだけで、タイプ論は「気分の話」から「行動の話」になります。
そしてもう1点、本書は他者理解の道具として使うより、自分を整える道具として使う方が安全です。人をタイプで見始めると、相手の行動の説明を早く作りすぎます。そうなると、対話が減ります。タイプは便利な近道ですが、近道は誤りも運びます。本書は、近道に乗りつつ、検証の手続きを残せる人に向く一冊です。