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レビュー

概要

『モニター越しの飼育』は、「誰かに見られる」ことの甘さと怖さを、スマホとネットの時代のリアルな距離感で描くサイコホラーです。主人公は小学校教師の加納凛。厳格な母のもとで育ち、真面目に生きてきた彼女には、誰にも言えない秘密があります。それは、下着姿の自撮りを撮っては眺めること。罪悪感と高揚が混ざったその“趣味”が、ある日いきなり外側から侵食されます。

PC画面に現れたのは、見覚えのある自分の写真。そして名乗りもせずメッセージを送ってくる謎の男「鈴木」。彼は凛の秘密を握り、次々と指示を出してきます。凛は抵抗しながらも、モニター越しのやり取りに奇妙な親密さを感じていく。しかし、画面の向こうの支配は、現実の人間関係にも忍び寄り、彼女の生活は少しずつ崩れていきます。

読みどころ

  • 「見られる恐怖」が段階的に濃くなる:匿名のメッセージから始まって、日常そのものが監視に変わっていく過程が怖いです。
  • 凛の心理描写が生々しい:嫌なのに、どこかで“見てほしい”気持ちもある。この揺れが本作の核だと思います。
  • ネットの残酷さが、事件として刺さる:一度拡散したものは戻らない、という無慈悲さが物語の圧になります。
  • モニター越しの関係が持つ危うい優しさ:直接会わないからこそ、安心してしまう。実はそこが一番こわい。

本の具体的な内容

凛は、教師としてはまじめで堅実な人物です。母の期待に応え、波風を立てずに生きてきた。だからこそ、誰にも見せない夜の顔として、自撮りにのめり込んでいきます。撮る行為そのものがスリルであり、自分を確認する儀式でもある。そこへ、突然「鈴木」からのメッセージが届きます。

鈴木は、凛が撮った写真を持っていると示し、従わないなら職場にばらすと脅します。凛は追い詰められ、言われるままに新しい写真を送ることになる。けれどやり取りを重ねるうちに、鈴木の言葉はただの脅迫ではなく、凛の孤独に入り込むような“理解”の言葉に見えてくる瞬間があります。実はここが苦しくて、怖い。加害と救いが、同じ口調でやってくるんですよね。

さらに事態を加速させるのが、凛が学校でスマホを紛失してしまう出来事です。見つけたのは同僚の石黒。彼は凛の中身を覗き、写真を材料にして現実の場で凛を追い詰めます。モニター越しの脅迫が“画面の中の怖さ”だとしたら、石黒は“手の届く距離の怖さ”。この二重構造が、読者の逃げ場を削っていきます。

やがて凛は、写真の拡散という最悪の形で人生を壊され、職も居場所も失っていきます。追い詰められた彼女が最後に頼るのが、鈴木とのやり取りです。「会いたい」とメッセージを送り、指定された場所へ向かう凛。そこで待っていたものは、彼女が想像していた“救い”とは違う形の現実でした。終盤は、支配と依存の輪郭が一気に露わになって、息が詰まります。

類書との比較

現代ホラーには、幽霊や呪いではなく、監視カメラやSNS、個人情報の漏洩を恐怖の中心に置く作品が増えています。本作もその系譜にありますが、特徴は「欲望の入り口」が主人公自身の内側にあること。外から突然降ってくる不幸というより、秘密と孤独が“つけ入る隙”になってしまう。そこがやけに現実的で、読後にしんどさが残ります。

一方で、ただ残酷なだけではなく、「なぜ凛はそこまで追い詰められたのか」「誰が凛を弱らせたのか」という視点も置かれていて、単なるスリラーとして読み捨てにくい構造になっています。

こんな人におすすめ

ネット社会の怖さを扱ったサイコホラーが好きな人におすすめです。スマホ1つで人生が変わる時代の、リアルな恐怖を味わいたい人には刺さると思います。

ただし、脅迫、性的な強要、拡散被害といった描写が中心にあるので、そこが苦手な人は注意してください。気持ちよく怖がるというより、「胸がざわつく怖さ」を読ませるタイプです。

感想

個人的に一番こわかったのは、凛が“嫌だ”と言い切れない瞬間が何度も出てくることです。拒否したいのに、相手の言葉に救われてしまう。孤独が深いと、優しさに見えるものへ手を伸ばしてしまう。その弱さを責められないからこそ、ページをめくる手が重くなります。

それと、石黒の怖さが本当に身近です。ネットの向こうの匿名より、同じ職場にいる人の悪意のほうが、逃げにくい。凛の世界が狭くなっていく描写が、じわじわ効きます。

読後は、PCのカメラをふさぎたくなるし、スマホの中身も見直したくなります。怖い話なんだけど、怖がらせるためのフィクションで終わらず、「自分の生活の穴」に視線を向けさせる。そういう意味で、いま読む価値のあるホラーでした。

本の虫達

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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