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レビュー

概要

『小説 野性時代 第176号 2018年7月号』は、複数の作家の作品や企画を1冊に束ねた文芸ムックです。単行本のように1つの物語へ深く潜るというより、短編・連載・特集などを「編集の視点」で横断していきます。

文芸ムックの強みは、読者が「全部読まなくていい」ことです。刺さった作品は深掘りすればいいし、合わなければ離脱していい。こうした設計は、読書習慣の再起動にも向いています。長編を読む体力がない日でも、数ページなら開ける。入口の多さが、結果として読書の回転数を上げます。

読みどころ

1) 読書の「探索」を自然に増やしてくれます

読書は、好きな作家を追いかけるだけでも楽しいです。ただ、同じ型の作品ばかり読むと視野は固定されやすい。組織学習の文脈では、既知のやり方を深める「活用」と、新しい可能性を試す「探索」のトレードオフが論じられています。doi:10.1287/orsc.2.1.71
文芸ムックは、この探索を日常化しやすい媒体です。自分に合う作品も、合わない作品も出てきます。しかし、その差分が「次の選択」をうまくします。読書の地図が更新されるからです。

2) 没入しやすく、撤退もしやすい

物語への没入(transportation)は、感情反応や態度に影響し得ることが示されています。doi:10.1037/0022-3514.79.5.701
ただ、没入は体力も使います。疲れている日に長編へ突っ込むと、読書そのものが嫌になりやすい。ムックは短い単位で没入と離脱を繰り返せます。負荷を調整しやすい点が長所です。

3) 他者理解の練習になる可能性はあります(ただし万能ではありません)

フィクション読解が他者理解(Theory of Mind)と関係する、という主張はよく引用されます。文学作品の読解が心の理論課題に関連するという報告もあります。doi:10.1126/science.1239918
一方で、この領域は議論も多いです。効果の大きさや条件にもばらつきがあります。近年の研究でも改善を示す結果はありますが、何でも読めば効くと言い切れる話ではありません。doi:10.1038/s41562-018-0408-2
その前提で考えると、文芸ムックは合理的です。自分が入り込める作品に当たりやすいし、入り込めない作品が出る理由も観察できます。両方が学びになります。

類書との比較

単行本は、1つの世界と向き合う時間をくれます。一方、文芸ムックは「出会い」をくれます。新しい作家や文体を探したい人や、読書が停滞している人には、単行本より効く場合があります。

SNSやランキングに頼ると、選択は似た方向へ寄りがちです。ムックは編集のキュレーションが入る分、自分の外側へ連れていかれやすい。偶然性を買う読書として価値があります。

こんな人におすすめ

  • 新しい作家や作品を発掘したい人
  • 長編に疲れていて、短い単位で読みたい人
  • 読書習慣を立て直すための「入口」が欲しい人
  • 文体やテーマの違いを横断して味わいたい人

感想

西村の視点では、この号は「作品集」というより「読書の探索装置」です。ムックの本質は、読後の次の行動を増やすことにあります。刺さった作家を追う。刺さらなかった理由を言語化する。編集の意図を推測する。こうした二次的な活動が、読書体験を厚くします。

文芸ムックは、気になるところからつまんでいいです。合わなければ飛ばしていい。気に入ったら付箋を貼ればいい。この軽さを許してくれる媒体があると、読書は再び回り出します。

参考文献(研究)

  • March, J. G. (1991). Exploration and Exploitation in Organizational Learning. Organization Science. doi:10.1287/orsc.2.1.71
  • Green, M. C., & Brock, T. C. (2000). The role of transportation in the persuasiveness of public narratives. Journal of Personality and Social Psychology. doi:10.1037/0022-3514.79.5.701
  • Kidd, D. C., & Castano, E. (2013). Reading Literary Fiction Improves Theory of Mind. Science. doi:10.1126/science.1239918
  • Dodell-Feder, D., et al. (2018). Reading literary fiction can improve theory of mind. Nature Human Behaviour. doi:10.1038/s41562-018-0408-2

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

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