レビュー

概要

『駆除人 (2)』は、異世界に転生した害虫駆除のプロ・ナオキが、“駆除”という仕事を通して人や街と関わっていく異世界ファンタジーです。剣と魔法で大暴れ、というより、現場で淡々と段取りを組んで、困りごとを解決していくタイプ。つなぎ姿のナオキが、異世界でも相変わらず職人気質なのがいいんですよね。

この2巻では、ナオキが異世界での旅を本格的に始める中で、ある駆除の依頼先で奴隷のメイド・テルと出会います。テルは、これまで「役割」としての人生を生きてきた人。ナオキとの出会いをきっかけに、彼女が少しずつ自分の人生を取り戻していく気配が描かれていきます。派手なバトルより、誰かの心がほどけていく瞬間を見せてくれる巻です。 静かな優しさが残りますし、忙しい日にもちょうどいい読後感です。

読みどころ

  • “駆除”が、異世界の生活感と直結している:モンスター退治ではなく、生活を守る仕事として描かれるのが新鮮です。
  • ナオキの仕事ぶりが気持ちいい:知識と段取りで片づけていくので、読後に変な疲れが残りません。
  • テルの存在が物語にやさしい温度を足す:誰かの隣で生きてきた人が、自分の輪郭を取り戻していく流れが沁みます。
  • 異世界なのに“現代の働き方”がにじむ:プロとして線を引くところと、助けたい気持ちが出るところ。そのバランスが絶妙です。

本の具体的な内容

異世界に来たナオキは、害虫駆除の知識と道具の扱い方を武器に、「困りごと」を仕事として引き受けていきます。ここが本作の面白いところで、問題の正体は必ずしも“強い敵”じゃない。生活の中に入り込む厄介ごとで、放っておくと人の暮らしがじわじわ削られていくタイプのものです。

2巻の軸になるのは、駆除の依頼先で出会うテルとの関わりです。テルは奴隷のメイドとして働いていて、選択肢の少ない日々を送っています。そんな彼女が、ナオキの働き方や言葉に触れることで、「自分の気持ち」を意識し始める。大きな演説や奇跡ではなく、現場での会話や、目の前の出来事の積み重ねで、少しずつ表情が変わっていく感じが丁寧です。

ナオキ自身も、優しさを振りかざすわけではありません。助けたいと思っても、相手の事情を勝手に決めつけないし、できることとできないことの線引きもする。でも、その距離感があるからこそ、テルが「誰かに救われる」ではなく、「自分で前を向く」方向に物語が転がっていくんですよね。

もう1つ良いのが、駆除の描写が「その場しのぎで終わらない」ことです。何かを倒して終わり、ではなく、原因を見て、今後の暮らしが少しでも楽になる方向へ整えていく。そういう積み重ねがあるから、異世界ファンタジーなのに、読後に残る感覚がわりと現実的なんです。仕事や生活って、実はこういう“地味な改善”の連続なので。

なお、本作は漫画(浅川圭司)・原作(花黒子)・キャラクター原案(KT2)の体制で作られていて、異世界の空気感はしっかりファンタジーなのに、描かれる感情はすごく生活寄りです。だから読み終えたあとに残るのは、スカッとした勝利というより、「ちゃんと整った」感覚に近いと思います。

類書との比較

異世界転生ものは、主人公が圧倒的な力で無双するタイプが目立ちますが、『駆除人』はそこから少し外れています。強さの誇示より、手順と知識と観察力。だから、戦闘シーンが苦手な人でも読みやすいと思います。

また、“仕事で人を助ける”系の物語でも、医療や料理などは定番ですが、害虫駆除という職種を正面から置くのが珍しい。生活に密着した困りごとだからこそ、助かった側の安堵がリアルに伝わってきます。

こんな人におすすめ

疲れているときに、派手な刺激より「ちゃんと整う話」が読みたい人におすすめです。異世界が舞台でも、描かれているのは暮らしの手触りなので、気持ちが落ち着きます。

あと、誰かの期待に応え続けて、自分の気持ちが分からなくなっている人にも。テルの変化は、劇的じゃないからこそ刺さると思います。

感想

個人的にこの2巻で好きなのは、ナオキが“正しいこと”をするヒーローとして描かれないところです。仕事として向き合う冷静さがありつつ、見捨てられない気持ちもちゃんとある。その両方を持ったまま動くから、読者も安心してついていけます。

そしてテルの描き方が、すごくやさしい。彼女が変わるのは、誰かが無理やり引っ張り上げたからじゃなくて、「自分の人生を生きたい」と思える瞬間が積み上がっていくから。そういう物語って、実は現実でもいちばん信じられるんですよね。

異世界ものの形を借りて、働くこと、暮らすこと、誰かと関わることを静かに肯定してくれる1冊でした。続きが気になる、というより、「またこの空気の中に戻ってきたい」と思わせてくれる巻です。

本の虫達

要約・書評・レビューから学術的考察まで、今話題の本から知識を深めるための情報メディア

検索

ライター一覧

  • 高橋 啓介

    高橋 啓介

    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
  • 森田 美優

    森田 美優

    出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。
  • 西村 陸

    西村 陸

    京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。
  • 佐々木 健太

    佐々木 健太

    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

人気の本

Social Links

このサイトについて

※ 当サイトはアフィリエイトプログラムに参加しています。