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レビュー

概要

『「環境を守る」とはどういうことか』は、環境問題を「善いことをしよう」という標語で終わらせず、守る対象・守る理由・守る方法を分解して考えるための入門書です。岩波ブックレットらしく分量はコンパクトですが、だからこそ論点が凝縮されています。自然保護、公害、資源、生活の質、地域経済といった異なる価値が、同じ「環境」という言葉で混線している現実を丁寧にほどいていく構成です。

本書の基調は、環境論を道徳化しすぎないことにあります。環境配慮を否定するのではなく、なぜ議論が噛み合わないのかを概念レベルで明らかにする。何を守るのかが違えば、優先順位も政策手段も変わる。こうした当たり前を、思想の視点から再確認できるのが本書の価値です。短い本ですが、環境ニュースを読む前提を整える効果は大きいと感じました。

読みどころ

第一の読みどころは、「環境」の多義性を可視化する点です。生態系保全、人の健康、景観、文化、将来世代への責任など、守る対象は複数あります。対象が違えば、評価指標も当然違う。ここを曖昧にしたまま議論すると、同じ言葉で別の話をしてしまう。本書はこのズレを初学者にも分かる形で示します。

第二の読みどころは、環境問題をトレードオフ設計として捉える視点です。ある価値を守ると、別の価値にコストが生じる。たとえば規制強化は環境負荷を下げる一方で、短期的には地域産業や雇用に影響を与える場合があります。ここで必要なのは二者択一の正義論ではなく、負担配分と時間軸を含む設計論だというメッセージが一貫しています。

第三の読みどころは、思想と実務をつなぐ導線です。理論だけで終わらず、技術・制度・市民行動が相互補完であることが示されるため、読後に現実の政策議論へ接続しやすい。環境問題を「意識の高さ」の競争にしないための視座として有効です。

類書との比較

環境問題の古典としてはレイチェル・カーソン『沈黙の春』のように、具体的被害を告発するタイプがあります。告発型の書籍は危機認識を広げる力が強い一方、価値衝突の設計論までは読者側で補う必要があります。本書は告発よりも前提整理に特化しており、「議論を始めるための地図」を作る役割が明確です。

また、気候変動に特化した政策本や技術書と比較すると、数値や制度詳細は薄めです。その代わり、どの政策議論にも共通する問いの立て方を提供します。専門書へ進む前段として読むと効果が高く、すでに専門知識がある読者でも、議論の詰まりをほぐす再確認として使える内容です。

こんな人におすすめ

環境テーマを仕事で扱い始めた人、授業や研修で環境問題を教える立場の人、SNS上の環境論争に疲れて論点を整理したい人に向いています。科学データの詳細よりも、まず議論の枠組みを整えたい読者に適しています。逆に、再エネ政策や炭素価格の実装論をすぐ深掘りしたい場合は、読後に各論の専門書を併読するのがよいでしょう。

感想

この本を読んで強く残ったのは、「環境を守る」という言葉が、実は決断の免罪符ではないという指摘です。環境配慮を掲げるだけでは、どの価値を優先し、誰がコストを負担するかが見えません。本書はその見えにくさを正面から扱い、善悪のラベル貼りではなく設計の議論へ導いてくれます。

とくに有効だったのは、守る対象を分ける視点です。生物多様性の保全、健康被害の回避、将来世代への責任、地域文化の維持は、互いに重なりつつも一致しません。対象を切り分けるだけで、議論の停滞がかなり減る。これは会議や授業など実務場面で即使える知的道具だと感じました。

また、環境問題を道徳化しすぎることの危うさにも納得感があります。道徳は動機づけとして重要ですが、制度設計を代替できない。技術、ルール、文化の三層をどう組み合わせるかを考える必要があるという本書の立場は、現実志向で実装可能性が高いです。

分量が少ないため、具体的政策の比較や国際交渉の詳細までは踏み込みません。ただ、それは欠点というより役割分担だと思います。各論に進む前に読むことで、議論の前提を共有できる。環境問題を“語れるテーマ”から“設計できる課題”へ変える入口として、非常に有用な一冊でした。

読後に役立ったのは、環境施策の提案を見るときに「守る対象」「評価指標」「負担主体」の三点を必ず確認する習慣です。この三点を分けるだけで、賛否の衝突がかなり解像されます。短い本ですが、会議や授業で使える質問フレームを与えてくれる点で、想像以上に実務的でした。環境問題を感情論から設計論へ移すための、繰り返し参照したい導入書です。

本の虫達

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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